ミュージカル「カンパニー」
ミュージカル「カンパニー」インタビュー


演出:小池修一郎氏
皆さんから「細かい」とか「口数が多い」とか「口が悪い」とか色々と言われて
いる小池先生(^^;。勿論、舞台に賭ける情熱の故であることは、皆さんも承知の
うえでの発言なのですが、実際にお話を伺っていても、その情熱の一端を垣間
見ることが出来ました(^^;。


 はい、何か聞いて下さい。はい。(録音用のDATに)回って無いのこれ?
 (ビデオの)蓋が開いて無い。はい。はい。・・・
 
ソンドハイムのミュージカルを演出なさるのは
 全く初めてでございます。はい。

出演者の方に伺うと、唄が凄く難しいと皆さん仰っしゃっているのですが、今回、訳詞をなされていて如何でしたか
 それは難しい所もありますけれど、反面、日本語にのせてしまうので、むしろ
 語数が少なくなりますから簡単になるんです。従って、原詞の持っている意味
 の深さが追い切れるかどうかの方がむしろ問題なんです。聞いていて複雑には
 聞こえない。むしろシンプルに聞こえると思います。
 ただ、英語独特の引っ掛けた言い方、難しい単語を使っているとかではなくて、
 一行の係わり方みたいなのが、他の芝居の中のある事を意味していたりして、
 隠喩・メタファーと言うんでしょうか、それが追い切れるかどうかが難しい所
 ですね。
 ミュージカルを演る場合には何を取るか、その時々で、筋を伝えているのか、
 感情を伝えているのか、情報を伝えているのか、それの取捨選択が一番難しい
 所です。

台本にはかなり手を入れられましたか
 台本に関して言いますと、やっぱりアメリカ人の方に色々聞いたんですけど、
 60年代の後半の日常会話で、今60代や70代の人はこの言い方をするけれども、
 今は誰も言わない、みたいなのが有って。
 キャストの中にも英語で育ったハーフの方が居るんですが「こういう言い方は
 聞いたことが無い」と言うのが何箇所も有って、じゃ、リバイバル上演の時は
 どうやったかというと、そのまま演っているんですよね。TV中継のモノを見
 てもお客さんが笑ったりしているんで受けてはいるんだけど「じゃ意味は?」
 って聞くと「何となく解るけど」ってのが一杯、随所に有る。
 非常にトレンディというか、その時の風俗を描いているので、言葉が非常に
 日常的な流れの中でどんどん行く。重なったりしていて、整理された戯曲では
 ないんですね。
 従って日本語に訳すと結局「ねぇ」とか「ああ」とか「そうだろ」しか訳せな
 いものが一杯有るんで、そう言う所は随分摘まんだりしてますね。それから
 役者さんが自分のセンスで間投詞とか、接続詞とか、そういうのはノリという
 か、演技のパターンで選んだりはしてます。

この芝居が書かれた60年代と現代、NYと東京の差などは感じられますか
 この作品が95年と96年にNYとロンドンでリバイバルされて、それなりの成功
 を収めているのは、そういう価値が有るからだと思うんですね。それはやっぱ
 り、ことに日本との場合においては、結婚観とか恋愛観とか、それから人生観
 みたいなものが60年代末や70年代初期の時点に比べて、今の日本にぴったりの
 レベルというか内容になっているので、とてもタイムリーな上演じゃないかと
 思います。
 つまり、一寸前までの上演でしたら、一部の先端的なファッショナブルな人達
 の生き方風みたいに見えたと思うものが、今の日本だと、そこらに居る隣りの
 人や、オフィスで一緒に働いている人みたいに、親近感が持てる。
 その点は日本の社会の在り方が、そこまで来たかなと思いますね。その点、
 とても良く理解されるんじゃないでしょうか。

今の東京に非常に合っているということですね
 上演されたのは70年なんですけど、丁度70年のNYの風俗というか、モラルが
 今の日本では非常に普通のスタンダードになったと言う事ではないでしょうか。
 つまり、当時70年ではアメリカの中でも先を行っている人達のことだった訳で、
 それが、今の日本では当たり前の事として観られる、だからこの30年間という
 のが、僕なんかは日本ってものがそういう風に動いたんだと思いますね。

登場人物の生き方が今の時代に違和感が無いとしても、各カップルはやはり、 ちょっと変な人達ですか?
 それはそうですね。誇張されていますし。何処か何かにいらだっていたりとか
 何かから逃れようとしていたりとか、そう言う所は非常に誇張されていると思
 います。
 中にユダヤ人の話題がでてきたりして、ウディ・アレンやニール・サイモンに
 非常に共通していると思うんですけれども。私達がウディ・アレンの映画を見
 たり、ニール・サイモンの舞台を観ても、そんなに、理解出来ないと言うこと
 もないと思うんです。
 ジョークのディティールとかはともかく、感情として、何かどうもピンとこな
 いな、ってことはあんまり無いと思うんで、その辺はこの作品でも良く解るん
 ではないかと思っていますけれども。

演じる側の各カップルのメンバー(俳優)にも、多少変な要素がありますか
 それは変というか、それぞれとても個性的でユニークで面白いと思いますね。
 やっぱり、その人なりにその役との接点の作り方がとても面白いと思います。

今の段階で、特に「このカップルは」というのは有りますか
 元々一番面白いと言えば面白いんですけど、エミーとポールという長年同棲の
 末にやっと結婚式を挙げようとするカップルがいて、それがすったもんだする
 という所は、一番コミカルな所ですし、演技者の入絵加奈子さん、安崎求さん
 という二人は芸達者なんで、とても面白いですね。

それは台本を創って行く過程で考えられたのとは、違う展開でしたか
 そうですね。勿論、台本上のものと一致していると思うんですけども、同時に
 演る側が自分との接点−−自分というのは今生きている日本人だと思うんです
 よね。
 翻訳劇の場合、演出家とかスタッフよりも、演技者がお客さんに外人と日本人
 の間の通訳というか、橋渡しをしなければいけないと思うんで、それが、良く
 生きていると思いますね。

今回の出演者に関して、今迄舞台などを御覧になって抱かれていたイメージと、
実際に稽古をなされて違ったことはありましたか

 私は半分以上の方とは仕事をした事があるんですよ。初めての方が、4人か5人
 位じゃないかな。そんなに居ないんですけども。山口さんが何と言っても、あの
 最初にお逢いした時、色んな冗談を言う人なんで、何か、大丈夫かなこの人って
 思ったんですが、稽古してはやはりね、それまでの仕事で鍛えられてきてる。
 ミュージカルというジャンルを演る上での術を全て心得てる人です。それは感心
 しました。
 宝塚じゃない仕事の場合に、やっぱり必ず、その便法っていうのかな、男優さん
 達はやっぱりね、歌が得意、踊りが得意、芝居が得意、それぞれ有って、やっぱ
 りミュージカルというものの文法とかね、スタイルって言うものになると、どこ
 かで引っ掛かるんですよ、はっきり言って。
 何か、中々ハマらないのね。つまり、前奏の中で喋って唄になるとか。芝居の合
 間に音楽が入ってくるとか。そうすると、それを繋げていけない人が多いんです。
 つまり自分と合わないって。
 そこで「上手くいかないっ!」って思う人が多いんだけども、山口さんの場合、
 それは、見事にそれに対してスパッとハメてくるから。これは、やっぱりそれ迄
 の経験と、後、本人が生まれつき持っている音楽的な感性、音楽劇と言うものに
 対する感受性が、(力を込めて)本当に優れた人だと思います。これは感心しま
 した。
 多分−−日本中の人とやったことは無いから解らないけども−−、おそらくは、
 日本の男優さんとして、多分最高じゃないかですか、その点に於いては。
 ・・・と言うと市村さんが怒るでしょうね(笑)。でも私はやっぱり、彼の方が
 そういうものを持ってくるのは上手いと思いますね。

今回、男優陣は『こんなに踊るとは思わなかった』『プロデューサーに騙された』と皆、言ってますが
 あ、そうですか。でもね、皆それなりに踊ってますよ、結構。急に振付になると
 皆ビビルんだけど、その癖、結構格好付けたがって、中々ね。良い齢こいて、と
 いうのが多いですね(笑)。稽古中面白かったですよ。
 でも、男優陣が踊る所がある種、一番ハイライトになってるんで、ナンバーの中
 で。これは中々面白いですから。
 「レ・ミゼラブルや何かでは観られないところ」と言っておきましょう(笑)。

他のミュージカルでシリアスな役を演っている人が、思いがけない事をするのが多いんですか。隠し技というか。
 ええ、多いです。隠し技かどうか解りませんけど、やっぱり皆さん器用というか
 芸達者ですから、とても面白いと思います。特定の作品の彼等しか知らない人が
 観たら、一寸びっくりなさる所が、それぞれの役に有るんじゃないでしょうか。

今回の方々を含めて、日本にミュージカル俳優、小池先生のお創りになる舞台に出演出来る様なキャストが、確実に育って来ているという実感はございますか
 それは思います。今、山口さんが私と年齢がほぼ一緒なんですけど、私もこの道
 20年を越えてしまっているんですが、彼も多分20年位演っているでしょう。
 今回、宝塚出身者、四季出身者、音楽座に居たことの有る人、薔薇座に居たこと
 が有る人、それから諸々の公演とか、色んな所から出てきた人が一緒に演ってま
 すでしょう、東宝のミュージカルも含めて。
 そうするとミュージカルというジャンルで育った人がこれだけ成長して、一つの
 ものが出来る所まで来てるんだなと思いまして、それは私は、非常に心強いもの
 を感じました。
 ですから、役者が育っているんですから、御客様も沢山いらっしゃる筈なんで、
 御客様が育っているであろうと。そういう所で、何百万、何千万(笑)のミュー
 ジカルファンの方が。是非観て頂きたいと思っているのでありますが。はい。
 やっぱり、どうしてもアイドル系の人って興行がそれを中心に組んでますしね、
 TVタレントとか、俳優さんが歌を唄うのを結構喜んで、つまり、隠し芸会的な
 要素が強いと思うんですよ。やっぱり。
 ですから、そういう興行が多いと思うんで、それに対して、全く、本当のミュー
 ジカルというもので飯を食っていこうと−−そうじゃ無いのも、一寸居たりする
 んですが(笑)−−歌手でも無いし、ダンサーでも無いし、俳優の余技でも無く
 て、表芸・本芸としてミュージカルというジャンルのことを演ろうという人達が
 揃ってますし。
 それを観たいという観客が沢山居る筈なんで、その方達に是非是非是非観て頂き
 たいのですが、そういう人はニフティをやっている人しか居ないんだろうか(笑)
 その人達はやっぱり二千人位しか居ないのかしら(笑)。
 
では、一般の、普通のお客さんに対するアピールとしては
 それはもう、『明るく楽しいミュージカルです』としか言いようが無い(笑)。
 華やかで。鳳さんの華やかさに「あっ」と言い、山口も多分格好いいだろうし、
 ・・・いえ、格好いいです。そして男優陣も皆格好いいし、女の子は皆綺麗だし、
 色っぽいHな踊りも有るし、ふっふっふっ、スケベなシーンもあるし(笑)。
 舞台の上でベッドシーンが観られるとかね。
 諸々有りますから、色んなそれぞれの好奇心、ニーズを満たすと思うんですけど
 ね。女子高校生が観たい部分も、お母さんが観たい部分も、全部見せてくれると
 思うんですけど。駄目でしょうか〜(笑)
 (懇願するように)皆さん。皆さん、観に来て〜〜〜。(笑)

インタビューで弱気を出して頂いては一寸・・・(笑)
 みんな、みんな観に来て楽しめると思うんですね〜。

やはり女性に対するアピールが強いんでしょうか
 やっぱり男性の結婚するかしないかという話だから、出て来る女性像がどれも
 身近なもので、観客の誰もが何処かに居ると思うので、その中で自分を見たり
 それから自分の夫や彼を見ることもできるだろうし。
 逆に言うと、男を陥とすにはどうしたら良いか、というのも解るんじゃないか、
 と(笑)

じゃ、カップルでは観ない方がいいのかも(笑)
 いや、カップルで観ても、別れようと思っているカップルはヨリを戻せるかも
 知れないし(笑)、これからって言うとこは「やっぱり僕達も今夜はああいう
 風にしよう」とか思うだろうし(笑)、色々と指南して貰えて良いんじゃないか
 と思いますけどね。

手管有り、パターン有りですね
 だから、もしかして別れようと思っている場合には、それはそれで良いかも知れ
 ませんね。

どうも、ありがとうございました。
と、インタビューを〆めて、小池先生は演出家席の方へ・・・と思いきや、突然
こちらを振り返り

 そうそう、私、今言わなかったですけど、何かね、こう、ネタとしては
 『石川が山口に迫る。マリウスは本当はジャン・バルジャンが好きだった。』
 というのを入れておいて下さいね。『どうやら、公演中に愛の告白をしたらしい』
 って。それをテナルディエとか、元マリウスが見ている。元テナルディエ夫人も
 居る。って。(一同、大爆笑)

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