「これがセットで楽屋、設定はモチーフとなるミヤコ蝶々さんが昭和50年代後半に大阪のとある劇場でお芝居を演っているという設定で、その楽屋です。ここで一切の舞台転換、装置転換無しで、この楽屋の中だけで2時間、話が進みます。但しお話は7歳のころからずっと彼女の人生を追って行く訳で、この楽屋の中だけで、ここが例えば7歳の彼女が初めて舞台に立った九州のとある炭鉱町の劇場の舞台になったりとか、大阪から東京へ向かう夜汽車の中になったりとか、病院の中になったりとか、この中で全部展開します。ここにあるいろんな小道具を使って、彼女は7歳になり、22歳になり、40何歳になり、という感じになっています。だから衣裳替えなんかも全部ここで見せてしまおう、という趣向です。例えばあそこに緑色の変なジャージが掛かっていますけれども、あれは何かというと、戦争の場面になった時に彼女が履いてそれをモンペに見立てるという感じですね。
今回、本当に演出的なところで色々工夫していまして、――僕は演出家でもないので、お芝居にそんなに工夫はないのですが、――今回はかなり頭を使いまして、テーマは「見立て」ということで、この中に在る色んなものを、色んなものに見立てて一人の人の人生を表現していこうと思っています。その見立ての一つで、上に楽器が並んでいるのが見えると思うんですが、あそこでBGM、一切合財の音楽を小竹さんと山下さんの二人にやって貰います。SE・・・普通は音響さんが出してくれる汽車の音とか、大砲の音とか、時計の音とかも全部見立てということで、後ろの打楽器を使って演奏する事になっています。
僕は『オケピ!』というお芝居で初めて小竹さんを知ったのですが、打楽器の世界というのは本当に面白くて、色んな僕らの知らない楽器が沢山有るんですよね。(数十センチのホースを袖から出して)これも楽器で“ミュージックホース“というものらしいのですが、こうやって音を出します。(実際にやってみせる)面白いでしょ。これがどういう風に劇中で使われるか、というのは見ていただいてのお楽しみです。(竹筒のようなものを手に)これは雨の音を出す時に使う、これも楽器なんですよね、“レインメーカー”というものです。(実際にやってみせる)延々、何か流れるんですよね、中はどうなっているのか、解らないですが。僕が一番お気に入りなのはですね(と、ポケットから取り出す)。これはパチカという打楽器なんですけれども、これは実際に上で演奏されるのですが、あんまり面白いので僕はマイ・パチカをヤマハで買ってきたんです。これはどう使うかというと――これは来年多分一番のヒット商品になるんじゃないかと僕は思っています――(実際に使いながら)こうやって音を出すんですけれども、叩きながら音も出るんですが、時々こうやって(と別の使い方を試すが上手くいかずに)、・・・ちょっと・・・さっきは掴めたんですが・・・こうやって、こういう感じで音を出すんです。これも非常に珍しい、パチカという楽器です。本番でも凄く活躍しますので、それもご期待していただきたいな、と思っています。」
という説明がなされた後、「これから冒頭の部分だけ観ていただいて、こんなお芝居なんだよということだけ観ていただきたいな、と思います。」と言う事で、一度舞台が暗転し、芝居の冒頭部分の上演が行われました。
12分ほどの上演が終わった後、緞帳の下りた舞台の前に再び姿を現した三谷氏は、「今観ていただいたように、彼女の人生がこのあとずっと50何歳に至るまで続き、その間に2回の結婚があったり、駆け落ちがあったり、ステージパパのお父さんとの交流があったり、そのお父さんの死があったりと、色んな波乱の人生があって、最後に彼女がいったい何を見つけるかというのが、今回のお芝居のテーマになっております。
今観ていただいた様に、7歳の戸田恵子さん、――まあ見ようと思えば見えないことはないと思うんですけれども――、一人芝居は観る側にも集中力が必要なお芝居なんですよね。
この後も例えば彼女のお父さんであるとか、初恋の人、最初の恋人、旦那さん、2番目の旦那さんとか一杯登場人物が出てきます。それは決して実際に出て来る訳じゃなくて、お客様には見えないし、台詞は聞こえない。全部戸田恵子さんが自分の芝居で、リアクションであたかもそこに人が居るように、喋っているように見せるということです。だから観ている方も集中しないとそこに誰が居るのか良く判らなくなっちゃう。でも集中してちゃんと観てくれると、生き生きとした色々な登場人物が見えてくる、みたいな仕掛けになっています。
僕は、台本にはその相手の台詞を全部書きました。イメージキャストもして、この役はこの人じゃないかと、僕の芝居に良く出てくれる俳優さんたちでキャスティングを勝手にやって、この人はこの役者さんが演ってますと戸田さんにも伝えました。例えば台詞を僕が言ったりしながら稽古をして創っていきました。だから、相手の台詞も観ている皆さんの耳に聞こえてくるように創っているつもりではあるので、そういう感じで楽しんでいただけたらな、と思います。
僕の理想は、カーテンコールで最後に戸田さんが出てくるんですけれども、そこで初めて観ている人は「あれ、これ他に登場人物居なかったっけ?」「出演者、戸田さんだけだったんだ。」って、そこで初めて一人芝居だったってことに気がつく、そんなお芝居にしたいなと思っています。プレビューを見た感じだと、多分そういうものになっていると確信しておりますので、皆さんも是非その目で確かめていただきたいな、と思います。」と、この舞台の狙いを語った三谷さん。
「1月の末までやっております。その後は大阪にも行きます。よろしくお願いいたします。どうも今日はありがとうございました。」と締めくくって、公開稽古と三谷氏の見所講義は終了となりました。