企画意図

―かつて日本の北に蝦夷と呼ばれる人々がいました。
そして大和朝廷は日本統一の最後の仕上げとして、蝦夷の討伐に乗り出しました―
大和朝廷はなぜ蝦夷を討たなければならなかったのか。
それは、民衆を「情報操作」するためにわかりやすい「悪役」が必要だったからではないか、という視点でこの物語は書かれてます。
実は、この構図は現代まで歴史の要所要所に必ず顔を出す構図です。
もちろん第二次世界大戦の例をひくまでもなく…。
そして、現在の世界も勧善懲悪の単純な論理で動かされてはいないでしょうか。
イラク侵攻しかり、北朝鮮の問題しかり、そして世界各地で脅威となっているテロリズムの論理しかり…。
民衆の気持ちをひとつにするには<共通の「敵」に対して自分たちの利益を守っていかなくてはならない>という大義名分は最もわかりやすく、人々を扇動しやすいのです。この勝者が敗者を裁く構図はそのまま、はるか彼方大和朝廷の時代にも当てはまります。
まさに歴史は繰り返されているのです。

演出家・謝珠栄が常に描き続けているのは、表舞台には登場しないヒーローたちです。
古今東西いつの時代でも、今歴史の教科書に登場している英雄たちの影に、その英雄を支え、愛する人々と国の未来を思いながら、歴史のうねりの中で自ら捨石になっていった多くの人々がいます。
そしてそういった人たちのエネルギーと勇気こそが真に歴史を作ってきたことを、エンターテイメントで描いていきたいと考えます。
かつて『天翔ける風に』『風を結んで』と歴史の1ページをミュージカルにしてきた謝珠栄が、今回はアテルイの治めた蝦夷の地に、故郷をこよなく愛し故郷を守るために立ち上がる若者たちを息づかせ、見事に新しい名も無き熱きヒーローを創り出すに違いありません。
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