1980年、次回作の構想に悩んでいた劇作家の小野田勇氏に森光子が「私、ウソつき女が演りたいです!」と言った事から生まれた傑作喜劇の『雪まろげ』。
『雪まろげ』とは雪球が坂を転がりながらどんどん大きくなっていく様を表わす言葉で、劇中で森さんが演じる芸者・夢子がお座敷で調子良くついた小さなウソがどんどん大きくなって、青森県浅虫の温泉町を大騒動に巻き込んで行くというこの舞台。東京・帝国劇場で3月31日まで上演された後は、4月5日からは福岡・博多座での1ヶ月公演がスタートします。
7年ぶりの上演となるこの作品は、1980年の初演から再演を重ねながら、「北海道編」「山陰編」といった続編も含めたこれまでの通算上演回数は412回。今回の東京・帝国劇場と4月29日までの福岡・博多座の公演を終えると、471回を数えることとなり、これは森さんにとっても『放浪記』(通算1858回)、『おもろい女』(通算463回)と並ぶ代表作と言えます。
今回、この人情喜劇の演出を担当するのはマキノノゾミ氏。これまでに『深川しぐれ』『本郷菊富士ホテル』『ビギン・ザ・ビギン』と森光子さんのために脚本を書いてきたマキノ氏ですが、演出家としては初の顔合わせ。
三木のり平演出で評価の高いこの作品に、果たしてどのような新風を吹き込み、新たな『雪まろげ』を創り上げるのか、大いに興味の沸くところです。
と言っても、もちろん劇中の名場面は健在。森さん扮する芸者・夢子がお座敷で披露する津軽弁での「♪津軽海峡冬景色」は必見。津軽弁を滑稽にデフォルメし、初演時に演出の三木のり平氏と一緒に考えたという振り付きで踊りながらの場面は、客席を笑いの渦に巻き込みます。
そしてもう一つ。劇中で中国人のワンさんを探す場面で、初演の時にふと出たという森さんのアドリブ「ワンさんねえ、そんな人いたかな・・・ワンさん、ワンさん・・・貞治でもないし」が客席大爆笑となり、以後、定番のセリフとなりました。
当時から王貞治さんとは親交のあったという森さんですが、実はこのセリフに関しては許可をいただいてなかったとか。
そこで今回、東京公演の初日を前にした会見に、王貞治さんの娘の理恵さんが王さんからのプレゼントである色紙と福岡ダイエーホークスのスタジアムジャンパーを持って登場、改めてのお墨付きとなりました。この訪問を事前に知らされていなかった森さんはビックリしながらも観劇した様子で、4月の博多座公演での再会を願っていました。
共演は、森さんに思いを寄せられる純情な放送記者・伴大吾に、『ツキコの月、そして、タンゴ』で初競演した石田純一。津軽弁で自作の詩を読んだり、リンゴの皮の長剥きに挑戦したりと活躍を見せます。
さらに、大吾の元恋人のニュースキャスターに森口博子、旅回りのストリッパーから芸者になるアンナに、前回の『雪まろげ』で初舞台を踏んだ山田まりや、個性豊かな夢子の芸者仲間に中田喜子、大塚道子、田根楽子など、芸達者な面々が顔を揃えました。
青森県・浅虫温泉を舞台に繰り広げられる、笑いと涙の物語。27年を経ても決して色褪せる事のない人の心の温かさを確かめに、劇場に足を運んでみてはいかがでしょうか。
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