現在、日本人初のブロードウェイ演出家として、『太平洋序曲』プレビュー公演中の宮本亜門さん。同作は12月2日に初日を迎えますが、その宮本亜門さんの凱旋帰国後第一作として、2003年1月30日より3月30日まで公共ホール演劇製作ネットワーク事業として全国14ケ所で公演された、ミュージカル『亜門版 ファンタスティックス』のアンコール上演が行われることになりました。
『ファンタスティックス』は1960年5月3日にオフ・ブロードウェイで初演されて以来、2002年1月13日にクローズするまで42年間、17,162回の上演を重ね、史上最長のロングラン記録を打ち立てた作品で、世界各国でも上演され続けている名作ミュージカル。
日本でも1972年の初演以来幾度も再演を重ねており、作曲者のハーヴェイ・シュミット氏がピアノを弾き、脚本/作詞のトム・ジョーンズ氏が出演するという豪華版の来日公演が行われたこともあります。
ちなみにあの特徴ある「Fantasticks」のロゴ文字は、シュミット氏の手によるものです。
舞台はほとんど何もない空間。ごくわずかな小道具や、俳優たち自身がシンボリックに状況を設定する。極めてシンプルながら寓意に満ちたこの物語が、世界中の人々の心をとらえました。名曲“トライ・トゥ・リメンバー”と共に、この作品は繰り返し世界中で上演され、観客の心を静かに慰めてきたのです。
出演者は、青年=マットには昨年の公演でも高い評価を得た井上芳雄さん、そして少女=ルイ―ザには、これが2度目の舞台出演となる大和田美帆さんが、多数応募者の中からオーディションによって選ばれました。
また、エル・ガヨの山路和弘さん、少女の父の斉藤暁さん、旅芸人の二瓶鮫一さん、なすびさん、ミュートの水野栄治さんが昨年に引き続いての出演となりますが、今回、青年の父親役として1967年の『ファンタスティックス』日本初演でデビュー(青年役)した沢木順さんが加わるのは大きな話題となりそうです。
『太平洋序曲』で演出家としてブロードウェイデビューを果たした宮本亜門氏の帰国後第1作となるこの公演は、昨年も、その心地良いテンポ、計算されたリズム感で、各方面から高い評価を得ました。
宮本亜門氏にとっても若き日に自ら主演した思い出の作品であり、沖縄でワークショップを行う際には題材としてこの作品を選ぶのが常であったそうで、さまざまな舞台を精力的に手がける宮本亜門氏が、いつか自分を振り返る時に手がけてみたいと思っていたという作品です。
青年と少女が恋に落ちる。無邪気な初恋にはやがて亀裂が走り、二人は別々の道を歩む。それぞれに大人の社会の荒波を体験し、痛みと思いやりを少し知った二人は再会してもう一度愛し合う・・・
世界各国で上演され続け、日本でも再演を重ねたこの作品は、世界が戦争に傾き、異なる価値観が対立する今こそ胸をうつ普遍的なメッセージを持つと言えるでしょう。