シアターフォーラム    
シアターフォーラム 伊藤キム×白井剛 三島由紀夫に挑戦 『禁色』記者懇談会

 1997年の開館以来、日本のダンスシーンの発信地として、様々なダンサーやカンパニーが公演を行い、常に注目を集めてきた世田谷パブリックシアター(芸術監督:野村萬斎)。
 この春、同館が行う初めてのダンス主催公演として、ダンスの歴史に新たなページを記す刺激的な作品、三島由紀夫原作、伊藤キム構成・演出・振付による『禁色(きんじき)』を発表します。


 今公演の原作となる三島由紀夫の「禁色」は、1951年から53年にかけて発表された長編小説で、ギリシャ彫刻のような美しさを持つ青年と、彼の性的魅力を利用し、生涯裏切られ続けた女性たちへの復讐を遂げようとする老作家の間に巻き起こる「性」と「生」、同性愛という題材を扱い、それまでの社会の秩序や価値観を覆す作品として、当時さまざまな論議を醸し出しました。

 また、この小説を基に59年に5月に発表された、土方巽振付、土方巽・大野慶人出演による舞踊作品『禁色』は、“舞踏”と呼ばれるジャンルの最初の作品として、20世紀後半の世界各国の現代舞踊に多大な影響を及ぼすことになります。

 今回、この伝説的とも言うべきテーマの作品、そして歴史的な三島由紀夫と土方巽という存在に挑むのは、伊藤キム(構成・演出・振付・出演)、白井剛(出演)の二人。
 伊藤キムは「伊藤キム+輝く未来」を主宰し、1995年にはバニョレ国際振付賞を、2001年には第一回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞を受賞するなど、その多彩で旺盛な活動の場は国内外に及び、ユニークな視点と感性に基づく話題作を発表し続けている、現代舞踊を代表する振付家・ダンサーの一人。
 その伊藤氏が作品創りのパートナーとして選んだ白井剛は、「伊藤キム+輝く未来」の中心的ダンサーとして活動後、「Study of Live works 発条ト(バネト)」を主宰し、2000年のバニョレ国際振付賞を受賞。2002、2003年と2年連続して、トヨタコレオグラフィーアワード・最終審査会に出場するなど、将来を大いに嘱望されている若手振付家・ダンサーです。


 出演者のお二人と劇場関係者が出席して行われた記者懇談会の席上で、『禁色』という作品を選んだことについて伊藤さんは「ミュージカルやオペラのような、純粋ダンス以外の要素を取り込んだものというプランを立てて、大勢の作品をしようと最初は考えたのですが、多人数の作品、ソロの作品は自分のカンパニーでもやっているので、趣向を変えてデュオ・・・それなら『禁色』と思ったんです。自分は舞踏からコンテンポラリーに転向したと思われてますが、自分ではそう思っていませんし、自分のダンスの方向やスタイル、伝統的な舞踏ではない舞踏の道を来て、もう一回自分の出発点を見つめ直したいと思い、昔にさかのぼって、土方巽の『禁色』=舞踏の最初の作品に至りました。元々三島作品が好きで、美しい文章と官能的なテーマ性に刺激を受けていたこともあります。この作品を鏡として自分の姿を写す試みであり、自分はどういう舞踏なのか、これからどうなるのか、という実験でもあります。」とその経緯と意気込みを語ります。

 その伊藤さんから「共演者として最初に名前が挙がった」という白井さんは、「始めは男6〜10人という話で、ダンサーとしてキムさんと出来ると思っていましたが、後で二人になったと言われてちょっとびっくりしました。よりダンサーとしての身体が必要で、これまでキムさんとマンツーマンで創ったことが無かったし、(共演の)間が開いているので、大きなチャレンジだと思いましたが、やってみたいと思いました。周りから「キムさんと関係するが、どうなるの?」「見に行く」などと言われて話題性が有る企画だと感じてます。今回は、2人の内の1人なので、身体が担う部分は大きいですが、頭を使わずに乗って、キムさんの世界観、『禁色』の世界観、その場で立ち上がる身体の何かを手探りしながら、ダンサーとしてのキムさんに出会えたら良いと思います。」と、この舞台への抱負を述べます。


 「ロックミュージックを使ってやってみたい。原作は自分たちだけで完結している特異な世界の話で、歴史を背負った作品であり、時代性もあって重いテーマだけれど、2005年に2人で躍る事を考えると、重いままにはならないで、実際の舞台はシャープなきりっとした感じがメインになって、その中にいろんなものが混在している二面性を持った作品になると思う。原作を断片的にヒントにして動きにしていくことは有ると思うが、二人の役に明確な設定はない。59年の舞台は土方巽と三島由紀夫のアーティストの交流の刺激のしあいから生まれた作品だと思うので、今回もお互いが触発して出て来たものから刺激を受けて創っていければいい。」とプランを語る伊藤さん。
 「本は買ったけれど、何ページか読んで止めています。やる前に読むか、稽古しながら読むか、終わってから読むか、読みこんで躍るか、まだ決めていない。」という白井さんとのデュオは大きな話題となりそうです。
 お互いの存在を
 「僕より凄くなると思った。身体も脳味噌もセンスがいいし、他から来る刺激に対して、自分なりのフィルターを通して返って来たものがユニークで面白くて、刺激になる。動きそのものに魅力があって透明な感じで、ユニセックスの感じに僕と似通ったところがあるので、舞台に並べて「禁色」のテーマが良いハーモニーになるかなと思った。」(伊藤さん)
 「ダンサーとしての必然性に近いくらいの存在感というか、パフォーマンスとの一体感、舞台上に一人で居る状態でも、力強さ、不思議さ、透明感の有るダンサーだと思う。これまで同じ時間、同じ空間を共有するシーンがあまり無かったので、その出会い、絡み、ダンサーとしてのキムさんの身体にノイズを加えたり、混ざっていく事のチャレンジだと思う。」(白井さん)
 と評価しながら、今回の舞台に腕を撫す二人。

『禁色』イメージ
撮影:野村佐紀子


伊藤キムと白井剛
左より:伊藤キム、白井剛


伊藤キムと白井剛
左より:伊藤キム、白井剛




『禁色』イメージ
撮影:野村佐紀子





撮影:野村佐紀子

 2人の振付家・ダンサーが創り出す、2005年版『禁色』。
 世田谷パブリックシアターでは、今後、日本語のテクスト=文学が舞台作品として成立し得る可能性を探求し、演劇のみならずダンスのレパートリー創りにも取り組んで行くという事で、海外公演や、カンパニーとしての作品の蓄積などを視野に入れた試みの第一歩となるこの公演は、今後の舞台芸術の在り方にも新たな波紋を投じることでしょう。


KIRIN DANCE NETWORK ● 二十一世紀舞踊 supported by KIRIN
  『禁色』(きんじき)
    原作:三島由紀夫 構成・演出・振付:伊藤キム 出演:白井剛、伊藤キム


《 東京公演 》
日程  2005年6月8日(水)〜6月10日(金) 19:30  6月11日(土) 15:00
( ☆ 6月9日(木) 公演後、ポストトークあり )
会場  世田谷パブリックシアター
 (東急田園都市線・三軒茶屋駅 直結)
料金  A席(1,2階) 4,000円  B席(3階) 3,500円
ユース(A席) 3,000円
 (25歳以下、くりっくチケットセンターで前売のみ・要身分証)
前売  2005年4月9日(土) 開始
チケット  くりっくチケットセンター 03-5432-1515 他
お問合せ  世田谷パブリックシアター 03-5432-1526
「禁色」ちらし 表 「禁色」ちらし 裏
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《 京都公演 》
日程  2005年6月24日(金) 19:00開演  6月25日(土) 15:00開演
会場  京都芸術劇場・春秋座
料金  一般 3,000円  学生&ユース 2,500円  当日 500円増 (全自由席)
前売  2005年4月20日(水) 開始
お問合せ  京都芸術劇場・企画運営室 075-791-8240

《 福岡公演 》
日程  2005年7月3日(日)15:00開演
 (終演後アフタートークあり)
会場  北九州芸術劇場
料金  3,500円  当日 500円増 (全指定席)
前売  2005年5月1日(日) 開始
チケット  北九州芸術劇場 プレイガイド 他
お問合せ  北九州芸術劇場・芸術文化情報センター 093-562-2655

キリンダンスネットワークについて  


撮影:野村佐紀子

◆伊藤キム (いとう・きむ)
1965年愛知県生まれ。87年、舞踏家・古川あんずに師事。90年、ソロ活動を開始。95年、ダンスカンパニー「伊藤キム+輝く未来」を結成。96年、「生きたまま死んでいるヒトは死んだまま生きているのか?」で、バニョレ国際振付賞を受賞、活動の場を国内外に広げた。「日常の中の非日常性」を風刺と独特のユーモアを交えて表現する手法は同世代の共感を呼び、現代舞踊を代表する振付家・ダンサーとしての地位を不動のものとした。2001年「Close the door,open your mouth」(新国立劇場製作)、「激しい庭」(びわ湖ホール、世田谷パブリックシアター共同製作)により、第一回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞を受賞する。

◆白井剛 (しらい・つよし)
1976年長野県生まれ。96年、「伊藤キム+輝く未来」に参加。2000年までカンパニーの中心的ダンサーとして活動する。同時に、96年から「Study of Live works 発条ト(バネト)」の振付家として活動する。20OO年、「Living Room - 砂の部屋」で、バニョレ国際振付賞を受賞。2002、2003年と2年連続して、トヨタコレオグラフィーアワード・最終審査会に出場する。主な振付作品に、「タイムニットセーター」「衝動とミディアムスロー」「彼/彼女の楽しみ方」「質量,slide &.」等がある。また、小学校におけるワークショップ型授業や、レジデンス・ワークショップを通しての作品創造など、多様なアートワークに取組んでいる。


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