今公演の原作となる三島由紀夫の「禁色」は、1951年から53年にかけて発表された長編小説で、ギリシャ彫刻のような美しさを持つ青年と、彼の性的魅力を利用し、生涯裏切られ続けた女性たちへの復讐を遂げようとする老作家の間に巻き起こる「性」と「生」、同性愛という題材を扱い、それまでの社会の秩序や価値観を覆す作品として、当時さまざまな論議を醸し出しました。
また、この小説を基に59年に5月に発表された、土方巽振付、土方巽・大野慶人出演による舞踊作品『禁色』は、“舞踏”と呼ばれるジャンルの最初の作品として、20世紀後半の世界各国の現代舞踊に多大な影響を及ぼすことになります。
今回、この伝説的とも言うべきテーマの作品、そして歴史的な三島由紀夫と土方巽という存在に挑むのは、伊藤キム(構成・演出・振付・出演)、白井剛(出演)の二人。
伊藤キムは「伊藤キム+輝く未来」を主宰し、1995年にはバニョレ国際振付賞を、2001年には第一回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞を受賞するなど、その多彩で旺盛な活動の場は国内外に及び、ユニークな視点と感性に基づく話題作を発表し続けている、現代舞踊を代表する振付家・ダンサーの一人。
その伊藤氏が作品創りのパートナーとして選んだ白井剛は、「伊藤キム+輝く未来」の中心的ダンサーとして活動後、「Study
of Live works 発条ト(バネト)」を主宰し、2000年のバニョレ国際振付賞を受賞。2002、2003年と2年連続して、トヨタコレオグラフィーアワード・最終審査会に出場するなど、将来を大いに嘱望されている若手振付家・ダンサーです。
出演者のお二人と劇場関係者が出席して行われた記者懇談会の席上で、『禁色』という作品を選んだことについて伊藤さんは「ミュージカルやオペラのような、純粋ダンス以外の要素を取り込んだものというプランを立てて、大勢の作品をしようと最初は考えたのですが、多人数の作品、ソロの作品は自分のカンパニーでもやっているので、趣向を変えてデュオ・・・それなら『禁色』と思ったんです。自分は舞踏からコンテンポラリーに転向したと思われてますが、自分ではそう思っていませんし、自分のダンスの方向やスタイル、伝統的な舞踏ではない舞踏の道を来て、もう一回自分の出発点を見つめ直したいと思い、昔にさかのぼって、土方巽の『禁色』=舞踏の最初の作品に至りました。元々三島作品が好きで、美しい文章と官能的なテーマ性に刺激を受けていたこともあります。この作品を鏡として自分の姿を写す試みであり、自分はどういう舞踏なのか、これからどうなるのか、という実験でもあります。」とその経緯と意気込みを語ります。
その伊藤さんから「共演者として最初に名前が挙がった」という白井さんは、「始めは男6〜10人という話で、ダンサーとしてキムさんと出来ると思っていましたが、後で二人になったと言われてちょっとびっくりしました。よりダンサーとしての身体が必要で、これまでキムさんとマンツーマンで創ったことが無かったし、(共演の)間が開いているので、大きなチャレンジだと思いましたが、やってみたいと思いました。周りから「キムさんと関係するが、どうなるの?」「見に行く」などと言われて話題性が有る企画だと感じてます。今回は、2人の内の1人なので、身体が担う部分は大きいですが、頭を使わずに乗って、キムさんの世界観、『禁色』の世界観、その場で立ち上がる身体の何かを手探りしながら、ダンサーとしてのキムさんに出会えたら良いと思います。」と、この舞台への抱負を述べます。
「ロックミュージックを使ってやってみたい。原作は自分たちだけで完結している特異な世界の話で、歴史を背負った作品であり、時代性もあって重いテーマだけれど、2005年に2人で躍る事を考えると、重いままにはならないで、実際の舞台はシャープなきりっとした感じがメインになって、その中にいろんなものが混在している二面性を持った作品になると思う。原作を断片的にヒントにして動きにしていくことは有ると思うが、二人の役に明確な設定はない。59年の舞台は土方巽と三島由紀夫のアーティストの交流の刺激のしあいから生まれた作品だと思うので、今回もお互いが触発して出て来たものから刺激を受けて創っていければいい。」とプランを語る伊藤さん。
「本は買ったけれど、何ページか読んで止めています。やる前に読むか、稽古しながら読むか、終わってから読むか、読みこんで躍るか、まだ決めていない。」という白井さんとのデュオは大きな話題となりそうです。
お互いの存在を
「僕より凄くなると思った。身体も脳味噌もセンスがいいし、他から来る刺激に対して、自分なりのフィルターを通して返って来たものがユニークで面白くて、刺激になる。動きそのものに魅力があって透明な感じで、ユニセックスの感じに僕と似通ったところがあるので、舞台に並べて「禁色」のテーマが良いハーモニーになるかなと思った。」(伊藤さん)
「ダンサーとしての必然性に近いくらいの存在感というか、パフォーマンスとの一体感、舞台上に一人で居る状態でも、力強さ、不思議さ、透明感の有るダンサーだと思う。これまで同じ時間、同じ空間を共有するシーンがあまり無かったので、その出会い、絡み、ダンサーとしてのキムさんの身体にノイズを加えたり、混ざっていく事のチャレンジだと思う。」(白井さん)
と評価しながら、今回の舞台に腕を撫す二人。