世界で、そして日本で幅広い世代に読み継がれ、今なお名作としてその輝きを失わない、ダニエル・キイスの小説『アルジャーノンに花束を』。
主人公チャーリー・ゴードンの「経過報告記録」として一人称的に語られている原作からは、これまでにも映画、TV、舞台と様々な形の作品が生まれてきましたが、この名著を本邦初となるミュージカル化した舞台、『アルジャーノンに花束を』が2月22日に東京・銀座の博品館劇場で幕を開けました。
主人公チャーリー・ゴードン(浦井健治)は手術を受けて天才となったものの、その為に人間関係の欺隔に苦しみ、やがては再び知能が衰えて、元の状態に戻ります。
その一部始終に立ち会い、見守り、しかし彼の全てを受け入れる事ができなかったのは、彼の教師であり、初恋の相手でもあるアリス・キニアン(安寿ミラ)。
そしてチャーリーと同様の手術を受けた先例として、彼の運命を暗示する実験用マウスのアルジャーノン(森新吾)は物語で重要な役割を担います。
物語はシンプルですが、それ故に愛惜と悲痛に満ち、深遠なテーマと鋭い洞察力による人間描写によって描かれた人間の懊悩は緻密かつリアルで、自分のごく近しい人間関係の中にも見出せるものであり、それが多くの人々の共感を呼び、涙を誘い、思索を促してきたのでしょう。
今回のミュージカル化に当たっては「歌」を中心に構成がなされ、時には叙情的に、時にはクールに、バラエティに富んだオリジナル楽曲(作曲:斉藤恒芳)が、複雑な心の揺れを追っていきます。
ストーリーは原作を忠実になぞりながらも、登場人物は整理され、また、キャストが場面によって幾つかの役を兼ねますが、同じ俳優が演じるそれぞれの役の存在が、主人公であるチャーリーにとって同じ意味合いを持ったり、あるいはまったく反転していたりすることで、劇的効果はさらに高まります。
今回、主人公のチャーリー・ゴードンを演じる浦井健治さんは、これが舞台初主演となりますが、原作からのファンであったということで、「とにかく早く演りたかった。」と気合は充分。
また、脚本・演出の荻田浩一氏も「かねてから「アルジャーノンに花束を」をミュージカル化したいと考えていたが、浦井君に出会って、彼が役者として持っている純粋なもの、無垢なものをイメージさせる資質で今回の公演が出来ると思った。」と、その存在感に大きな期待を寄せます。
人間の心の奥底に潜む、悲しみ、孤独といったモチーフで独自の世界を描き出す荻田氏が、浦井健治という俳優と出会って、どのようなイメージの舞台を創り出したのか。
原作を読んで感動した方も、映画に涙した方も、TVの前に釘付けになった方も、そして何故かこれまで縁が無くて良く知らなかったという方も、是非劇場に足を運んで、このミュージカルという新しい切り口の『アルジャーノンに花束を』を体験していただきたいと思います。
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