今回の舞台は、1997年のPARCO劇場公演『バイ・マイセルフ』上演の際に、出演者であった市川染五郎が同作品の脚本を担当した三谷幸喜に、楽屋で歌舞伎作品の書下ろしを依頼し、即決で引き受けた三谷氏が「中山安兵衛(後の堀部安兵衛)の“高田馬場の決闘”をテーマにしたオリジナル歌舞伎をやりましょう」と提案して、爾来構想8年、満を持しての上演となったもの。
舞台稽古を前にして、「8年前のその時以来、テンションはいつでも出来る状態でいましたが、やっぱり凄いですね。何か三谷さんの脚本に踊らされて皆が演っている気がしています。」と語るのは、主役の中山安兵衛を演じる市川染五郎。「期待を裏切るくらい凄いものを皆さんにお見せしたい。」と気合が入ります。
また「三谷さんを存じ上げなかったし。舞台を観たことも無かった」という、市川亀治郎は、「逆に三谷さんを知らなくて良かったと思いますね。お互いが探り探りやって、一つの回答を求めて行く姿勢が楽しいですね。自分では何を演っても歌舞伎だと思っていますし、「歌舞伎役者だな」ということを実感する舞台ですね。」と新鮮な稽古だった様子。
そして、「大河ドラマ(「新撰組!」)で御一緒した時は脚本だけで、演出は初めてなので不安はありましたが、稽古に入って「凄いな」というのは改めて思いましたし、毎日が楽しかったですね。」という中村勘太郎。「歌舞伎は古典も新作もありますが、こうやって一から創り上げていくことは最近は中々無かったので、皆で一緒に一つの作品を創り上げていくパワーを感じとって欲しい。」と、こちらも意欲満々のようです。
劇場入りの前に三谷氏から、「この芝居が歌舞伎にとってどういう位置に置かれるか、それは自分には解からないけれど、2時間の演劇として凄いものが出来あがっているので、自信を持って頑張りましょう。」と電話が有ったことを明かした染五郎。
「三谷さんを100パーセント信じて演ります。話は見ていただくしかないですが、「凄い」「カッコイイ」「綺麗」と感じて貰えれば嬉しいし、音楽も今までの歌舞伎にない使い方をしているので、全てを感覚として捕らえて欲しいですね。」と、出来栄えに自信を覗かせていました。
今回の舞台は、休憩無しで約2時間となりますが、三谷氏らしい奇抜なアイデアと仕掛けがふんだんに詰まった舞台で、下手側の客席通路は花道の代わりとしても使われます。またメインの染五郎、亀治郎、勘太郎の3人は複数の役を演じることになるため、その早変わりも大きな見どころとなるでしょう。
渋谷では、1994年からシアターコクーンで、中村勘三郎(当時は勘九郎)・串田和美の手によってスタートした「コクーン歌舞伎」がその斬新な演出で歌舞伎ファンはもとより、演劇ファンからも広く注目を集めていますが(2006年は、3月18日〜4月24日『東海道四谷怪談』を上演)、その向こうを張ってとも言える今回の公演。
舞台稽古の客席にはその勘三郎丈の姿も有り、終演後には三谷氏の元で何やら話し込む様子も見受けられました。
PARCO劇場とシアターコクーン、渋谷の街の3月は、春風と共に新しい歌舞伎の風が吹く季節となりそうです。
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