1998年『こどもの一生』(中島らも作)、2000年・2003年『人間風車』、2002年・2005年『ダブリンの鐘つきカビ人間』、2004年『MIDSUMMER
CAROL〜ガマ王子VSザリガニ魔人〜』(以上、後藤ひろひと作)と数々の名舞台を産み出しヒットさせてきたパルコ&リコモーション提携公演。(演出は全てG2)
2006年は新たに岸田戯曲賞作家・倉持裕(劇団ペンギンプルペイルパイルズ主宰)を迎えて、新感覚のラブ・ストーリー『開放弦』を7月14日より上演する事になり、スタッフ・キャストが顔を揃えての製作発表会見が都内のホテルで行われました。

左より:G2、倉持裕、丸山智己、大倉孝二、水野美紀、京野ことみ、伊藤正之、犬山イヌコ、河原雅彦
物語は、都会から遠く離れた農村。畑に囲まれた一軒の家。住んでいるのは、偽装結婚の夫婦、遠山(丸山智己)と恵子(水野美紀)。
遠山のバンド仲間、門田(大倉孝二)だけが二人の偽装結婚の理由を知っており、なんだか不機嫌。遠山の元恋人・依代(京野ことみ)もいぶかしげな目を遠山夫妻に向ける。
そんな中、取材旅行中と言う漫画家の夫婦、進藤(河原雅彦)と素江(犬山イヌコ)の車が遠山を轢いてしまい、遠山の右手は動かなくなってしまう。その代償にと遠山の田んぼで働き始める進藤夫婦。そこに人気漫画家である素江を連れ戻しにやってくる雑誌編集担当・木戸(伊藤正之)。
セリフの妙味、会話の間やズレが生む繊細な感情など、肌感覚に溢れる作風で定評のある倉持裕と、ビジュアリスティック且つドラマティックな演出が支持を得るG2。そして高い実力で活躍中の俳優陣が創り出すのは、男女の7人7様の思惑と愛情が錯綜し、揺れる、不思議で優しい群像劇です。
演出のG2氏は、「今までは自分が観客として観たい作品を演出してきたように思いますが、今回は「人間の本質に迫るコメディをやりたい」という自分の演出欲を満たしてくれる作品を創りたいという思いからスタートしました。「人間の本質」と言うと説教臭い感じがしますけれども、私が思う人間の本質と言うのは、滑稽で馬鹿げていて儚くて切ないものなんですね。それってとっても笑えるな、と思いますし、それを演劇と言うメディアで是非提示していきたい、と。それを表現する素材として、恋愛と言うのは、それに没頭中の人たちには非常に甘美なものなんですけれども、後で考えたり周りが見たりすると滑稽で馬鹿げて儚くて切ない、というところが非常にあり、でも、だからこそ恋愛してしまう、というような非常に面白いものなので、改めてそういう人間のおバカなところを恋愛を通して描きたいと思いました。
でも普通の恋愛モノにしたくはないので、恋愛モノを絶対に書きそうに無くて、しかも腕が達者で、演じる側の役者も取り組んでいて演りがいのあるというセリフを書いてくれる人、という事で倉持さんに到達しまして、打ち合わせの最初の方で彼が「居心地の悪さ」というのをキーワードに持って来て、恋愛って成就するまでの居心地の悪さに面白さがあるので、そこをクローズアップしていくというのは面白いな、という事で企画がスタートして、2年掛けてようやくこの間完成しました。
「最近、何か心の中にぽっかり穴が開いていて、隙間風が吹いているなあ。」というお客さんが観に来てくれたら、なぜか解らないけれど笑って、そしてそんなに感動した訳でもないのに、客席から立つ時に何かその心の穴が埋まっている、そういう風な作品になる予感がしています。そして集まってくれたキャストの皆さんもこの作品を表現するのにベストのメンバーが揃ったと思いますので、僕自身、変な話ですが非常に期待しています。」と、この作品の上演に至るまでの経緯と共に意気込みを語ります。
また、今回がパルコ劇場初登場となる倉持さんは「今回、ラブストーリーをやらないか、というリクエストを頂きまして、ラブストーリーと言うと、一方が片方を好きで、とにかく全編口説きに頑張り、奔走して最終的にモノにすると言うか、くっつくラブストーリーと、くっつきそうでくっつかないじれったいものと、大きく分けて二つあるなあ、と思いまして、どっちが個人的に好きかな、と考えた場合、そのじれったいラブストーリかな、と。
独身同士でじれったいというのは良く有る話なので、形式上もうくっついている夫婦が、夫婦のくせにじれったい、というのはどうだろう、と考えて、今回それを採用してやってみました。だから通常のじれったいラブストーリーとはまた違う、何か特殊なじれったさの出るラブストーリーになるのではないかと思っています。もう書き上げて、僕の仕事は終わっているので、あとはその僕の狙い通りというか、狙い以上のものが出来たらいいな、と願って祈っています。」と、ひょうひょうとした語り口の中にも自信を覗かせます。
さらに、この作品のもうひとつの主役となるのがギター。
舞台上でも披露される儚いギターサウンドの作曲・演奏を担当するのは、日本ジャズ界最高峰のギタリスト渡辺香津美。今回、大ファンである演出のG2からのラブコールに渡辺氏も共感して、画期的なコラボレーションが実現しました。ギター1本とは思えない音楽世界を、時には包み込むように優しく、時には攻撃的に激しく、そして、その手に掴もうとしても叶わない儚いメロディーを奏でます。
舞台上で、丸山、大倉、水野が演奏するギターが奏でるメロディも、渡辺氏の作によるものになります。
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渡辺氏の起用について、G2氏は「タイトルに『開放弦』とありますのは、ギターを何も押さえない状態で弦を鳴らす、それを「開放弦」と言うのですけれど、それが物語に深く繋がっておりまして、出演者の半分はバンドのメンバーを演じることになるのですが、そのギターが非常に上手く脚本上に使われていて、「ギターの出番だ」と思った時に、どうしても自分の心の中で「この人じゃないと!」という人が居まして、それが渡辺香津美さんでした。
僕も20歳まではギタリストを目指していまして、その時のスーパースターが渡辺さんで、しかもいまだに現役で頑張って、世界に誇る日本のスーパーギタリストの地位を不動のものとしている。そんな人にお願いして受けていただけるのだろうか、という事もあったのですけれども、「是非ラブコールを届けてください」と言ったところ、お会いしていただける事になり、そこでの熱弁が効いたのか、『開放弦』というタイトルが気に入っていただけたのか、奇跡が起こって渡辺香津美さんに音楽を担当していただけることになりました。」と、すっかりファンモードの様子。
その渡辺氏は、この会見に向けてビデオでメッセージを寄せ、「今回、音楽を担当させていただくに当たりまして、『開放弦』というタイトルに非常にビビッと来まして、やはりこれはギタリストである自分でなければ駄目なのかな、と思ったりもしました。細かい内容的なものは、これから熟読して、その音楽的インスパイアを高めていこうと思っているところです。
今回そのストーリーを読むと、それぞれの色んな登場人物の愛憎であるとか、新しい音楽、ギター、そして開放弦というものを一つキーにした新しい愛の形みたいな、目くるめく展開があるようで、読みながら非常にワクワクしているのですが、難しい、今までと違う発想でモノを創らなければいけないので難しいけれど楽しいだろうな、という気持ちでいっぱいです。本当に一つ自分の仕事の中で有意義なものが残せたらと思っていますので、皆さん是非期待していてください。」と、新たなチャレンジとも言える今回の音楽に意欲を燃やしていました。
不思議な空気感漂う、ナンセンスな恋愛喜劇。
そして、切ないギターメロディに彩られて浮彫になってくるのは、男女7人の、いびつな、でもピュアな愛のかたち。
日常と非日常の狭間を切り取り、それを巧妙な台詞で乾いた笑いに変換する作家・倉持裕と俳優の個性をその物語の中で十二分に引き出す演出家・G2が、この不思議な関係の中で、静かに、そしてぎごちなく進む、切ない愛の物語を紡ぎ出します。
なお、出演者各自のご挨拶などは、改めて掲載を致します。また、製作発表の模様を動画でもごらんいただけますよう、現在準備を進めておりますので、どうぞ楽しみにお待ちください。
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