新国立劇場の芸術監督である栗山民也氏が「このレパートリーで、現在の鈴木忠志の全体像が見られると思います。若い東京の人に足を運んで欲しい。」と期待するこの公演。
鈴木氏は「これまで、日本の演劇人の規範がヨーロッパにあるという思いを払拭したいと言う事と、日本の現代演劇を公共事業の中でしっかりと位置付けたいと思って活動してきました。日本演劇の公共的な文化政策の中枢であり、日本にヨーロッパと同等の演劇を、と努力する人の中枢の新国立劇場で、ヨーロッパ演劇と対等に競い合えることを実証したい。」と、力を込めます。
現在の活動拠点である静岡県舞台芸術センター(SPAC)は、公共ホールとしては日本初という、貸し出しを行わない付属劇団専用施設の劇場を持ち、スタッフ・キャストが静岡県のバックアップの元、レパートリーシステムでの活動を行っています。その芸術総監督として人事・予算面まで統括する鈴木氏は自身の活動について、「ヨーロッパの文化遺産は、世界共通の文化遺産であり、日本の演出家がその見方を通じてヨーロッパ社会を見ていることが解る仕掛けになっています。これまでの国際的な活動は、私のヨーロッパへの物の観方が新しいとして評価されていると思っているので、日本で、国際的な活動の全貌が解るような舞台をやりたい。」と抱負を述べ、さらに「今回の試みでは、舞台芸術の大切さ、新国立劇場のような施設の大切さを知らせるために、脚光を浴びる手伝いもしたい。オペラやダンスに比べて演劇の位置が低いように感じるが、演劇がヨーロッパの精神、文学、音楽、美術などに与えた影響などは多数有るし、演劇の持っていた力、演劇の大切さを日本社会に認識してもらうために、少しでも役立てばという思いが今回の舞台にあるんです。」と、日本演劇界への思いも語ります。
また、今回のヒロイン・オーディションでは、「スズキ・メソッド」により持っている身体のエネルギーを全開させ、潜在的エネルギー量の多さ、エネルギーのフレキシビリティ、言葉への感受性などを審査したという鈴木氏。書類審査で300人に絞った後に1次試験を行い、さらに40人に絞られた2次試験では4時間に渡り、よりレベルの高い訓練での試験を行ったとの事で、「ジュリアード音楽院のトップクラスにも引けを取らない素質がある人たちだが、闘争心の強い、普通の女優よりは少し野蛮かも知れない。」と笑って評します。
そのオーディションでヒロイン役に選ばれた鶴水ルイさんは
「今まで鈴木作品を観たことがなくて、オーディション合格後に他のメンバーとワークショップを受けさせていただいたが、正直体力的にも精神的にも凄くきつく感じました。出演させていただくことは嬉しいが、この先は静岡での稽古が待っているので、鈴木さんの演出と作品に体力と精神力で負けないように、自分のエネルギーを燃やしつつ地に足をつけて頑張りたい。」と、力強く抱負を語っていました。
フランス古典、チェーホフ、ギリシャ悲劇と、世界の名作を原作に、古典戯曲の本質を鋭く見抜く鈴木忠志独自の解釈が施され、作品の持つ本来のテーマをより鮮明にしていくという、斬新かつ密度の濃い鈴木忠志の演劇世界をたっぷりと堪能できる公演と言えそうです。
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