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シアターフォーラム 新妻聖子さん、文化庁芸術祭で新人賞(演劇部門)を受賞 喜びの会見

 現在、東京・有楽町の帝国劇場で公演されているミュージカル『マリー・アントワネット』にマルグリット・アルノー役で出演中の新妻聖子さんが、平成18年度(第61回)文化庁芸術祭の演劇部門において、芸術祭新人賞を受賞されることとなり、喜びの記者会見が、帝国劇場にて行われました。

 芸術祭は1946年に第一回が開催されて以降、秋を彩る芸術の祭典として定着。賞が設けられたのは翌年の第二回からで、現在では、演劇・音楽・舞踊・演芸・テレビ・ラジオ・レコードの7部門にて、芸術祭大賞、芸術祭優秀賞、芸術祭新人賞が授与されています。


 今回、“ミュージカル『マリー・アントワネット』の演技・歌唱にて”芸術祭新人賞(演劇部門)を受賞された新妻聖子さんは、上智大学在学中の2002年から芸能活動を開始し、2003年夏には5000倍のオーディションを勝ち抜いて、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のエポニーヌ役を獲得し初舞台を踏みます。以後、『ミス・サイゴン』のヒロイン・キム役や、『21C:マドモアゼル モーツァルト』のタイトルロール・モーツァルト役などのミュージカル、そして三島由紀夫作『サド侯爵夫人』のルネ役などを好演。その演技が評価されて、今年の4月には第31回菊田一夫演劇賞を受賞されました。

受賞の対象となったミュージカル『マリー・アントワネット』は、『エリザベート』『モーツァルト!』などの作品で日本でも人気の高い、ミヒャエル・クンツェシルヴェスター・リーヴァイの両氏が、遠藤周作氏の小説を原作に創り上げ、11月1日より帝国劇場で世界初演が行われている話題の作品。
この中で、新妻さんは、王妃マリー・アントワネットと対照的な境遇の女性、マルグリッド・アルノー役を熱演しています。

 会見場に白のドレスで登場した新妻さんは、大きな花束を贈られると満面の笑顔で応え、集まった報道陣に一礼をして席につきます。

 「このたび文化庁芸術祭・新人賞という本当に大きな賞をいただきまして、未だに信じられない思いでいっぱいです。受賞の知らせを聞いた日からずっと「本当に皆様のお陰だな」と感謝と感動が入り混じった心境で、驚きもありますけれど、とても嬉しく感動しております。
 舞台というのは色々な方のお力を借りて成り立っているもので、いつも「色々な方に支えられているな」と感じるのですけれど、この『マリー・アントワネット』という舞台に関しては、それを日頃よりもさらに強く感じておりました。というのも「世界初演」と銘打った舞台ですし、出演者もスタッフの皆様も一人一人が産みの苦しみを経て初日の舞台を創り上げたという自負がございます。本当に誰一人かけても成り立たないカンパニーだと思っていますし、「一人一人のお力を借りて、今私はここに居るんだな」と思っていますので、この受賞も、――新人賞という個人賞ですけれど、――皆に大きなご褒美を頂いた気がしてとても嬉しく思っています。
 初日の幕が開いてまもなく2ヶ月が経とうとしておりまして、公演は25日のクリスマスをもっていったん東京では幕を閉じるのですけれども、その後、来年1月は博多、2月・3月と大阪、そしてまた4月・5月と東京に戻ってくる長丁場ですので、私にとってこれは大きな励み以上の、大変かけがいの無いご褒美ですから、それを糧に5月の最終日まで一公演たりとも気を抜かずに務めて参りたいと思っております。」

新妻聖子

と、ご挨拶を終えた新妻さん。少しほっとしたのか笑顔がこぼれます。
 その後は、集まった報道陣との質疑応答となりました。

●今回の受賞に関して、どのような点が評価されたのだとご自身ではお考えですか
 自分の事は良く解らないんですけれども(笑)、どうなんでしょう。ただ私は無我夢中だった・・・というか、今も現在進行形なんです。前例の無い作品、世界初演ということで作品自体もお客様の目に触れることが初めてであり、マルグリット・アルノーという役も今回の公演で初お披露目という形になりますから。今まで私が経験させていただいた『レ・ミゼラブル』ですとか『ミス・サイゴン』というのは、前に大先輩方が演じて来られた軌跡が在って、そこから沢山の事を教えられながら力にして頑張ってきたのですけれど、今回は最終的に帰る部分というか、頼るところが自分の感性しか無かったので、物凄く不安でした。演出の栗山民也さんはじめ、先輩方に色々とご指導いただきながら、何とか模索しながら演ってきたという形なので、理由なんて・・・私なんかが頂いていいのでしょうか、という気分です。ただ、理由は解らないんですけれども、マルグリット・アルノーという人間の核に迫ろうと思って、真面目に彼女と向き合って来たという自負はあります。逃げなかったな、という実感はありますし、正面からぶつかろうと思いました。マルグリット・アルノーの心の旅というのはとてもタフな部分がありまして、最終的には本当に心がガラガラと崩れ落ちるところまで自分を追い込む存在なんです。私はもちろん新妻聖子という21世紀に生きている日本人なのですが、彼女と同時に彼女の人生を疑似体験しているような錯覚に陥るくらい凄く没頭している役でして、毎公演後は身体の疲労はもちろん、心もとっても疲労する公演です。ただひたすら一生懸命、夢中で一生懸命走り抜けた結果、ご褒美を頂けたのかなとは思いますが、良くは解りません。



マリー・アントワネット マルグリット役新妻聖子

●この受賞を最初に知らせた方はどなたですか また周りの方の反応はいかがでしたか
 私は「(正式な発表まで)言っちゃ駄目よ」と言われると本当に守る子なので(笑)、誰にも言っていないんですけれど、ただ母にだけは言いました。
 今回はリハーサルから本番中にかけて、先ほども申し上げましたように心身共にとても疲労しておりまして、家に帰ると抜け殻のように、玄関を開けたらパタンとフローリングの床に倒れ込むような生活をしていて、それを母が食事面ですとか、身体のケアとかで凄く支えてくれたので、この受賞のニュースを伝えたら号泣していました。
 凄く泣いて喜んでくれて、「頑張ったね」と言ってくれたので、私はそれが一番嬉しかったです。自分よりもやっぱり支えてくれた方、周りの方が喜んでくださるのが凄く嬉しかったです。

●菊田一夫演劇賞に続いての受賞ですが、受け止め方は違いましたか
 驚き具合は同じですね。受賞というのは、多分慣れる事は無いような気がしますから(笑)。どちらも「本当に信じられない」というのが最初の印象で、それから、じわじわと喜びというか、「何てありがたい賞を私にくださったんだろう」という感謝の気持ちが湧いてきて、そこで一人で感動した後に、家族とか大切な方とその受賞の喜びを分かち合った時に、自分の事の様に周りの方が喜んでくださることが色んな方への恩返しになるんだな、という二段階の喜びがあります。舞台もそうですが、受賞に関しても「一人で受けるものではないんだ、皆と分かち合って初めて凄く嬉しい事になる」ということも教えて貰いました。菊田一夫賞の時は、生まれて初めて頂いた大きな賞でしたから、それこそ本当にとてつもなく驚いて嬉しかったんですけれども、今回もまたこのような賞を頂いて、先ほども申し上げましたように「励みになる」という言葉では言い尽くせないくらい大きな後押しをしていただけたというか、「もっと頑張りなさい」って激励をいただいているような気分です。本当に努力を惜しまずに、誠心誠意毎日の舞台を、本当にお客様のために、お世話になった方のために務めて行こうと、改めて思います。

マリー・アントワネット マルグリット役新妻聖子
●ミュージカル女優を目指されたのは、いつ頃、どんなキッカケなのでしょうか
 私は大学では法律を専攻していまして、幼少の頃から目指していた訳ではなく、ミュージカルとの出会いは『レ・ミゼラブル』のオーディションだったんです。ですから、本当に色んなご縁に導かれてこの世界に連れてきていただいたという感覚が、私の中ではとても強いんですね。その当時、大学生の時はテレビ番組のレポーターをやらせていただいていて、その最中に「『レ・ミゼラブル』の大々的なキャスト・オーディションがあるよ」という話を伺って、ミュージカルに対する知識が無かったので、「ミュージカルというのは歌ったり踊ったりする場所で、私なんか何の経験も無いし、勉強も積んでいないからオーディションなんて無理ですよ。」って、お断りをしようと思ったくらいでした。でも歌がとても好きだという思いは、ずーっと子供の頃からあったので、「審査は歌審査だよ」と聞いて、「じゃあ、チャレンジしてみようかな」と変わって、本当にまっさらの状態で、課題曲の楽譜だけを胸に抱えてオーディション会場に行って、そこがミュージカルへの入り口でした。そこから本当に現場習得型というか(笑)、周りの方々からご指導いただいて、何とかここまで歩いて来られて、――その時は21、2歳だったのかな、――その時まで知らなかったのが悔やまれるくらいミュージカルの世界が凄く魅力的で、とにかく楽しくて、やればやる程課題が増えて、今では「本当に私の生きる場所だな」という感じを覚えるくらいな位置を占めているんです。
新妻聖子

●今後はどんなミュージカル女優を目指したいですか 具体的な作品などがありますか
 私は具体的な目標というのは敢えて決めないようにしているんですね。というのは5年前の自分、――今、26歳ですけれども――『レ・ミゼラブル』と最初に出会った頃の自分に今のこの状況を説明しても、多分信じられないだろうと思いますし、そういう意味で先が見えない未来というものにも、とても希望というか、無限の可能性を感じています。必要としていただける場所には行って、私が出来る最大限の力を出して、本当に毎日のお仕事にちゃんと向き合っていれば、きっと5年後もどこかに居られるんだろうな、という思いで、あまり具体的な作品だとかはありません。ただ、どんな方とも一緒にお仕事はしたいな、と思っています。今までお世話になった方とももう一度ご一緒したいですし、未だお会いしていない役者さん、演出の先生、沢山出会いたい人は居ますけれども、とにかく出会いを大切に、一つ一つの舞台を大切に演っていきたいな、という思いです。

●ミュージカルを始めるまで、歌の訓練というのはどのようにされていたのですか
 声が響くお風呂場で歌っていたくらいなんですが(笑)。でも、大学生の頃に歌っていたテープを最近発掘して聴いたんですけれど、とってもヘタクソだったんです。ですから、『レ・ミゼラブル』のオーディションから物凄いスピードで色んな事を覚えて行ったんだな、って改めてこの前感じたんですね。『レ・ミゼラブル』の歌唱指導の先生のご指導だとか、音楽の力に引っ張られた部分もあるでしょうし、一流の共演者の皆様の呼吸を肌で感じられた部分だとか、本当に私は学びの場だとすると、一番贅沢な環境でこの4、5年間を過ごさせて頂いて、授業料に換算したら幾らなんでしょう、というくらいです。一流の現場でゼロの状態からスタートさせていただいているところが一番大きいんじゃないかと思うんですよね。やはり作品に恵まれ、現場に恵まれた結果なのだと思います。

マリー・アントワネット マルグリット役新妻聖子

新妻聖子
●受賞を聞いた瞬間に蘇ったシーンがあったら教えてください また、この役を通して訴えたい特別な思いがありますか
 受賞の知らせを聞いた時に思い浮かんだシーンが有るとすれば、ラストシーンです。フィナーレで「♪自由」という曲があるんですけれども、そのシーンでマルグリット・アルノーは屈んだというか、――私は床に這いつくばったような状態で歌い出すんですけれども、――その時の自分のグチャグチャな顔がパッと浮かびましたね。「写真を一枚選んで」と言われた時も最初はそれを選んだんですけれど、あまりに顔がグチャグチャなので却下された写真なのですが(笑)、やっぱりそれが私の中でマルグリット・アルノーなんです。マルグリット・アルノーという女性は貧困の中、恵まれない環境で生まれて、何とかその中でも希望を見出して、次第に怒りだとか不満を原動力に革命に突き進んで、結果、自分のやった事に悔いだとか疑問を覚えてガラガラと精神崩壊して行く、という凄くタフな人生を経る女性なんですけれど、その中でもやっぱり、私の中では最後にマルグリットが何を感じるか、というのが毎公演の課題というか、凄く大きな部分を占めていて、私はあそこで一度マルグリットは死んでいる、と思っているんですね。マリー・アントワネットが後ろで身体を殺されているけれども、マルグリットも同時に心を一回ギロチンに殺さるんじゃないか、で、もう一度産まれるんだな、と思ってあえいでいるんです。やはりマルグリットが辿って来た道、色んな発見が有って生まれ変わるって、人類が永遠に繰り返している旅のひとつなんだと思うんですね。人間は過ちを犯す生き物だし、その過ちに気が付ける人と、気が付けない人が居るだけで、マルグリットは気が付けただけでも、とても幸せだな、と思って毎日演っているんです。この作品を演っていると、毎回マルグリットとして犯した過ちだとか、間違った行動に凄く後悔の念を抱いて、とても心が疲れるんですけれども、「発見・崩壊を経て如何に立ち上がるか」というか、「人間は間違いを犯すけれども、間違いを修正する能力も持っているんだ」という、その希望までを客席に届けられたらな、と思って演っています。エンディングはラストなんですけれどビギニングである、終わりで始まりだと思って演っているので、そのシーンがとても印象深いです。
新妻聖子

 今回の受賞の喜びを始め、ミュージカル、そして現在公演中の『マリー・アントワネット』でのマルグリット・アルノー役についても熱っぽく語ってくれた新妻聖子さん。
 この受賞を機に、さらに飛躍が期待される今後に大いに注目したいものです。


 現在公演中の『マリー・アントワネット』は12月25日までの東京・帝国劇場での公演の後、2007年1月には福岡・博多座、2月・3月に大阪・梅田芸術劇場、そして4月・5月には、再び東京・帝国劇場にて凱旋公演が行われます。

 さらに、新妻さんは2007年6〜9月には、東京・帝国劇場と福岡・博多座で行われるミュージカル『レ・ミゼラブル』にエポニーヌ役で出演されることが決まっています。
 また、2007年1月1日の21:00〜22:55にNHK総合で放送される正月時代劇「堀部安兵衛〜いまこの時のために生まれ〜」には、女剣士・伊佐子役で登場します。

 なお、それぞれの公演等の詳細は下記の公式サイトでご確認ください。


文化庁

新妻聖子公式サイト 
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