2001年1月、五代目坂東八十助から十代目坂東三津五郎を襲名。歌舞伎のみならず、「警部補・古畑任三郎」や「功名が辻」などのTVドラマ、「写楽」「武士の一分」などの映画、そしてエッセイ集「粋にいなせに三津五郎」など、多方面に渡って活躍する、坂東三津五郎。
その三津五郎丈が初めて小劇場の舞台に出演する公演、『砂利』が7月6日のかめありリリオホールを皮切りに全国公演をスタート。ファイナルとなる7月21日〜31日の東京・青山のスパイラルホール公演まで、全国7箇所で上演中です。
今回の舞台は、テレビ、映画、舞台など多方面で活躍中の近藤芳正が、新たな劇空間を求めて、2001年に酒井敏也、山西惇らの協力を得てスタートした「俳優の俳優による俳優のための」ユニット“劇団♪♪ダンダンブエノ”の第6回公演。
脚本は「生きているだけで、愛」が2006年の芥川賞にノミネートされ、最終選考まで残った本谷有希子が担当。演出には劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」主宰で、2004年「ワンマン・
ショー」にて第48回岸田國士戯曲賞を受賞した倉持裕という異色の組み合わせが実現しました。
物語は、血で書かれた脅迫状を受け取り、「幸せをかみしめた瞬間にやってくる」という言葉に怯えて暮らす兄(坂東三津五郎)とその面倒を見る弟(近藤芳正)。身重の兄の恋人(田中美里)、肺疾患を患っている居候の男(山西惇)、庭に迷い込んだ箱を大事そうに抱えた男(酒井敏也)。そんな人々が暮らす屋敷に突然女(片桐はいり)が現れたことから、事態は急速に展開して行きます。
与えられた脚本・演出による芝居づくりではなく、俳優同志の徹底したミーティングとエチュードにより台本を作り上げていく形式で、商業主義にはない「手作り感覚」の舞台空間を提供している“劇団♪♪ダンダンブエノ”。
今回の公演へ出演のきっかけについて、坂東三津五郎丈は
「実は、押し売りのようなもので(笑)、自分からお願いしたんです。……2001年の1月に三津五郎という大きな名前を襲名して以来、これからは「三津五郎」という名にふさわしい、用意されたような仕事が増えていくんだろうなあ…、という漠然とした不安がありました。そういうものに取り込まれない、肩書きや鎧を脱いだ、一人の役者として自分を磨ける場所に挑戦してみたい、そんな思いが強くあったのです。そんなときテレビドラマで酒井さんと出会ってダンダンブエノのことを知り、毎回ゲストを迎えて公演を行っているなら「僕もぜひ出してもらいたい」と、近藤さんにお願いしたんです。初めは本気にしてもらえませんでした(笑)。3年前のことです。」と、意外な返答。
そして「実際、得がたい経験をさせてもらっていると思います。去年の12月に、このプロダクションの特徴であるエチュード(即興芝居)を初めてやりました。スタジオが見つからなくて、初めは歌舞伎座の稽古場で、あとは中野富士見町のスタジオで4日間ぐらい。僕は、梱包のバイトをしている六畳一間のアパートに住む独身男、とか色々な設定で演ったんですが、最初は照れくさかったですね。そのうち馴れてくると、どんどん長くなって、「20〜30分くらいかな」と思っていたら、「いや、1時間くらい演ってましたよ」と言われたり(笑)。」と、俳優としての新鮮な体験もしたようです。
そのエチュードを見て、脚本の本谷さんが書き下ろしたのが、寝たきりの父親を一人で看取り、介護の後の虚脱状態で社会復帰が出来ず、さらに子供の頃にいじめた同級生がいつ復習にやって来るかと怯えて暮らす男。その役どころについて
「本谷さんには僕が感情のない男に見えたのかなと思うと、ちょっとショックでしたね(笑)。でも、当たってないことはない気もするんです。あまり喜怒哀楽がなく、情が薄いところがあるかもしれない。そういえば子供たちによく「お父さんは話を聞いてくれない」と言われるんですよ。僕は心を向けているつもりなのに……。深層を内視鏡で覗かれたような気持ちになりました。本谷さんは、本人が気付かない心の襞を見つけて書いている。表層で見えている部分がどれだけあやふやなものかってことですよね。」と語る三津五郎丈。
「役者の中でも、僕はどちらかというと役の力を借りて憑依するタイプで、"いたこ"っぽいんです(笑)。役の色に染まることで演じる僕が、色を持たない人間をどう演じていくんだろう。今、それがすごく悩みですね。……八十助という名で初舞台を踏んでから45年ですが、ここまでくるとすごく磨かれた細胞がある反面、「あ、もう俺たちは一生使われないだろう」という細胞が体内に眠ったままになっていると思うんです。今回、本谷さん、倉持さんという若い才能と出逢うことで、そんな細胞たちが「え、俺たち、出番なの?」と言ってくれたら嬉しいですね。」と、異種格闘技とも言える今回の公演に対して、自らの期待も高まっている様子でした。
“人の心を踏むような砂利の音。音を消そうと舞い落ちる雪。これは雪国のある屋敷で起きた本末転倒な人々のお話”という新作公演『砂利』。
好評のため、追加公演として、7月11日(水)19時開演の兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター・中ホール)、7月22日(日)19時開演の東京公演(青山スパイラルホール)も決定し、歌舞伎と小劇場の融合は果たしてどのような化学変化を起こしているのか。
演劇ファンならずとも関心の作品となりそうです。
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