1997年に鈴木保奈美の初舞台作品として上演され、その美しい舞台創りと優しさに溢れたストーリーで評判となった『郵便配達夫の恋』。
以来、再演が待ち望まれてきたこの作品が、10年の時を経てついに再演されることになり、9月27日の初日を前にして、稽古場の模様が報道陣に公開されました。
この作品は、1995年にフジテレビの深夜ドラマとして椎名詰平・水野真紀らの出演で放映され、微妙に揺れ動く男女の心の触れ合いを優しい視点で描いて絶大な人気を博した「かしこ」の作者であった砂本量が、「そのタッチをそのまま活かして舞台化は出来ないだろうか」と発案したもの。
ドラマで登場した若い男女が一定の年齢を経て大人となり、その子供が登場して親の過去に触れて行く、というストーリーを提起しました。
その砂本のイメージを脚本にしたのが、人気劇団“演劇集団キャラメルボックス”の作家・真柴あずき。そして砂本は真柴の許可を得て、出来上がった台本にさらに映像としてのイメージを想起させるものを取り入れるべく全編にわたって加筆・変更を加え、色彩感を与える作品を完成させました。
さらに、文学座出身の演出家・吉川徹が砂本のイメージを具現化するためにその手腕をふるって見事に舞台上にそのコンセプトを開花させ、ドラマ・映画音楽などで人気の岩代太郎の手による音楽が、劇中全編に渡って自然描写、心理描写を美しい旋律でサポートし、多くの観客の共感を得る舞台として好評を博しました。
そして今回、物語の主人公・あかりを演じるのは、これが初の舞台出演となる人気女性コンビ・オセロの中島知子。都会で歌手として活動を続けてきた彼女が、ふと時間を止めて、これまでの自分の生き方を振り返る、という役どころは等身大で演じられることもあり、これまでバラエティ番組や映画・ドラマで培ってきたキャリアを活かして、初舞台・初主演でどんな女性像を見せてくれるのか、大いに期待の持てるところです。
初舞台へ挑む気持ちを聞かれた中島さんは「初日に向けて緊張はしますが楽しみですね。」と笑顔で応え、「ドラマは出来上がっているところに入って行きますが、舞台は最初から立ち上げる感じが、宿題の苦手な自分には合っているみたいです。」と、初日までの過程を楽しんでいる様子。
また、初演で鈴木保奈美さんが演じた女性を演じることについては「タカ(鈴木さんの夫の石橋貴明)さんに相談したら、「あ、そうなの。最初から違うから好きにやりなさい。」と言われて、楽しみながら演るしかないと開き直っています。保奈美さんのようにスマートには出来なくて、暴れ太鼓みたいな演技になってしまうので(笑)、周りの男性陣に抑えて貰っていますね。」と、共演者とのコミュニケーションもバッチリのようです。
作品のタイトルでもあり、ストーリーの鍵を握る郵便配達夫=森尾を演じるのは辰巳琢郎。映画、テレビでの活躍が目立ちますが、京都大学在学中には学内劇団「劇団そとばこまち」を主宰し、近年でも一人芝居『乗りおくれた
夜明けに』やミュージカル『キャンディード』などに出演している舞台人でもあり、今回、あかりの母との秘められた過去を持ちながら黙々と郵便を配達し続ける難しい役どころに挑みます。
さらに、あかりのマネージャーで、ひたすら彼女を思いやり、支え続けていこうとする上村に演劇集団キャラメルボックスの看板俳優・西川浩幸。40歳にして舞台経験20年を超える西川が、役柄の上でも初舞台の中島を支えることになります。また、あかりの祖父で帰郷した孫娘を優しく迎える浦崎徳蔵には、劇団☆新感線の逆木圭一郎。普段の新感線公演とは全く違ったテイストの舞台で、今回の役柄をどのように演じるのか、楽しみでもあります。
オセロの相方である松嶋さんは昨年、劇団ダンダンブエノの公演『礎』で初舞台を経験していますが、「練習が大変やで」くらいのアドバイスしか無かったとの事。
その舞台を客席で観劇したという中島さんは「目が合いそうになると恥ずかしくて横を向いていたので、彼女も照れくさいと思うが観に来て欲しい。」とコメント。
さらに歌手の役ということで、劇中でギターの弾き語りシーンもあり「毎日1〜2時間猛特訓中で大変ですが、だいぶん弾けるようになって楽しいですね。いずれはディナーショーもやりたいので、その時は是非見に来てください。」と意欲を見せます。
また、今回はワインも劇中のテーマの一つとなっており、無類のワイン通で知られ、2001年には日本ソムリエ協会のソムリエ・ドヌール(名誉ソムリエ)となった辰巳さんは、「キーポイントは熟成ですね。30年前の郵便配達夫の恋がどう熟成されて行ったのか、観て頂きたい。」と語っていました。
原案・脚本の砂本氏は2005年末に47歳の若さで亡くなっており、氏に捧げるオマージュともなるこの舞台。10年の歳月を経ての上演は、改めてこの舞台の質と完成度の高さを感じさせるものとなりそうです。 |