謝珠栄さんが主宰する「TSミュージカルファンデーション」が2004年4月に上演し、好評を博したミュージカル、『タン・ビエットの唄』が2008年の新春に再び戻ってきます。
ベトナム戦争によって引き裂かれた姉妹と、ひとつの小さな命を守りぬいた民族解放戦線の5人のベトナムの男たちを描いた『タン・ビエットの唄』。
今回、フェイ役に新たに安寿ミラを迎えて、土居裕子との美しい姉妹が実現。そして、民族解放戦線の男たちには、畠中 洋、吉野圭吾、宮川 浩、駒田 一、戸井勝海という、いずれも日本のミュージカル界を代表する実力派が揃いました。
舞台は1990年代後半のベトナム。戦争を逃れてヨーロッパに渡り、英国人の養女になったフェイ(安寿ミラ)。姉・ティエン(土居裕子)の消息を訪ねて20年ぶりに祖国ベトナムに帰ってきたフェイは、逃げ出したはずの戦争の悲劇と現実に向かい合うことになる…。
今公演でも振付・演出を手掛け、また製作者としても忙しい日々を送っている謝珠栄さんですが、そうした合間を縫って、シアターフォーラムのインタビューに答えていただきました。
まずは初演の感想を伺うと「楽しい思い出ばかりです。」と笑顔の謝さん。
「手探りで創ったのですけれど、“美しくて悲しいけれども未来はある”という、新しい命にかかわる話で、女性の方に見ていただきたいなと思える仕上がりになりました。いい思い出ばかりあって、是非再演したいなと思っていました。」と、その成功には充分な手応えを感じていた様子です。
今回の再演については、「東京・池袋の東京芸術劇場で行われるミュージカル月間に参加することで、高齢者の方や学生さんに割安の価格で舞台を楽しんでもらう機会を設けたかった」との事で、ここにも製作者としての謝さんのこだわりと思いが感じられます。
「演出的なインスピレーションなどがふっと降りるようになってきたのが、前回のこの公演から。」と明かしてくれた謝さんは、「練って頭で考えて打ち合わせで決めたものと異なることが、稽古場で“パッ!”と発想や閃きが出てくるようになった。」そうで、『タン・ビエットの唄』ではこのインスピレーションが多くあり、例えば脚本では子供とフェイが同じ場面に出るようになっていたものが、最後までは出会わない演出になったり、過去と現在を行き来する演出に変わったそうです。
また、初演ではお芝居に重点を置いたキャスティングだったそうですが、今回の再演ではミュージカルとしての歌の部分を大きくしたいので、ミュージカルのキャリアの有る方を集めたとか。今回の出演者は今までにTSのミュージカルに参加されたことのある人ばかりなので、心強く感じているとの事です。
役者が変わると、また新たなインスピレーションが降りて来るかもしれませんね。
「ベトナム戦争を、ベトナムの人々からの思いを伝えたいと思っていることと、今はベトナム戦争自体を知らない人が増えていますが、私たちの時には衝撃的でしたから、戦争自体の怖さ、知らないところで苦しんでいる人が今でも居るんだということを訴えたいと思っています。」と語る謝さん。
「お客様に楽しいものを見せるというのは第一ですが、その中にも私たちが考えなくてはならないと思っているものをお客様に訴えることが、金銭的には還元出来ないかも知れませんが、社会に還元する私たちの役目なのではないかと思っています。」との言葉には力が入ります。
さらに、今回は大阪公演だけでなく、高知市民劇場公演主催の高知公演も行われます。 地方の多くの人にミュージカルの醍醐味を味わっていただくために、出来るだけ完成度の高い状態にしたいと非常に努力されているとか。TSは謝さんの個人事務所ですが、「自分が頑張れば私でも出来るかもしれないと新しい人が出てくるのではないか、これも自分の役割だと思っている。」と語る謝さんは、日本のミュージカル界の未来をも見据えているようです。
そして、謝さんはこの夏、宝塚歌劇団・月組公演『MAHOROBA ─ 遙か彼方 YAMATO ─』(宝塚大劇場公演:2007年8月3日〜9月17日、東京宝塚劇場公演:2007年10月5日〜11月11日)で、作・演出・振付を手掛けられました。
宝塚歌劇団には座付き作者が居るためになかなか機会のない中、宝塚歌劇団より声をかけていただいて企画を出したところ、その企画が通って実現したとの事。
「(宝塚歌劇団の座付き作者でないため)客観的だからこそ見えてくるものもあるし、でも歌劇団の生徒だった自分だからこそ、こんな宝塚があっても良いのではと思った部分もありました。」と振り返りながら、「自分なりに新しい風を吹き込む事で、これからの宝塚に少しでも役にたてればと思いました。勿論、座付き作家でないと解らない部分もありますが、かつては生徒であり、今は演出家であるという両方の立場で居られたからこそ出来る事がある、歌劇団への恩返しでもあると思ってやらせていただきました。」と、自らを育ててくれた歌劇団への愛情は今も深いようです。。
ご自身が主宰されているTSミュージカルファンデーションと宝塚歌劇団との作品創りの違いについては、「宝塚歌劇団で作品を創ることは規制も多いですが、モノ創りに専念できるのはとても幸せな事です。TSでは既成概念に囚われずにモノ創りをやろうと思っていますが、全てが自分の責任だし、自分たちで集客からしなくてはならない上に、1本でも失敗したら先が続かないから、全力投球でお客様に満足していただける作品を創り続けなければならないという危機感がありますね。」ということですが、そうしたプレッシャーを逆にバネにして、優れた舞台を創り続けるTSの作品にはこれからも大いに期待をしたいと思います。
なお、この謝珠栄さんへのインタビューは動画でもご覧いただけます。また、動画メッセージでは新たに飼ったという子犬も登場します。
ちなみに、この子犬の名前は、2008年5月に上演予定の新作ミュージカル『Calli〜炎の女カルメン〜』から取った、“カリン”ちゃんとのこと。
どうぞインタビューと併せて楽しみにごらんください。
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