舞台にはテーブルと二脚の椅子。
並んで座った男優と女優が、手にした台本を読み上げるだけの2時間。
「始める時には、このような企画が受け入れられるのだろうか、いつまで続けられるのだろうかと思っていた」と演出の青井陽治さんが語る『ラヴ・レターズ』が、300回公演を迎えます。
それを記念しての会見が、1990年の初演以来上演の場となっているパルコ劇場で、291公演目の出演者である寺脇康文さんと戸田恵子さん、そして演出の青井陽治さんが出席して開かれました。
今春の『オケピ!』でも共演されていた寺脇さんと戸田さん。公演中にも半分だけ本読みをしたとかで、寺脇さんは「『ラヴ・レターズ』は観たことがなかったし、普通公演中には他のことは考えられないのですが、戸田さんからやらないと誘われて本読みをしてしまいました。やってみたら非常に難しい本で「しまった。大変なことを引き受けてしまった」と思いました。」と振り返ります。
一方、過去に四度の出演経験がある戸田さんは今回の公演を「年月が空いた事で、改めて一から取り組めてよかったと思っています。寺脇さんはご両親も存じ上げているので、幼馴染と言う感覚がより近いものとして感じられました。」と語ります。
この公演は稽古も1日だけ。青井さんが時代背景などを3時間かけて説明し、本読みを1回だけ行って本番を迎えるもの。
「青井さんが毎回丁寧にレクチャーをされて、作品に対する愛情と熱意を持って取り組んでいらっしゃるのをしっかり残しておきたい」と戸田さん。「二人の人間の人生が詰まっている。人間が生きているのが感動的なドラマで、それを読むことでお客様の想像を膨らませて何百通りかの人生が浮かんでくれるといい。」と寺脇さん。
一度限りの稽古ということで、相当の集中とインパクトがあったことが伺えます。
その青井さんは、印象に残っている舞台や思い出の出来事について「限りなく有って話し出したら一晩でも足りないですが、最初に演っていただいた4組は思い出深いです。全国で公演するのに『ラヴ・レターズ』のイメージが壊れない劇場を探したことや、全国公演中の俳優さんのところへ、公演の間の休演日に稽古をするために、相手役さんと福岡へ行き、夜の10時から朝の4時まで稽古をして、福岡の雰囲気を味わう為に閉店間際の屋台でラーメンを食べたこともありました」と懐かしむ様子。
心に残っているシーン、台詞について、寺脇さんは「全体的なものですが、ぐっとくるのはト書きに初めてメリッサがアンディを見ると書かれているところでした。わざわざト書きで書いていることに、――そういうことを考えるのが俳優なんですが、――指定されていて、それがしかもいいところに来ているので、絶妙のタイミングです。」
戸田さんも「私もまったく同じ、台詞じゃないト書きです。それまでの積み重ねがあって――結ばれたのが最後の方なんですが、――死んでしまうメリッサですが、最後に彼を見る(彼は見ないんですが)んです。リーディングなので読んでいてハッとするシーンは強烈に印象がのこります。聞いてくださる方も、下を向いていたら逃してしまうので、見逃さないように。」と、お二人とも同じシーンに感銘を受けたようです。
「今日は自然に淡々と、皆さんに内容を伝えることを重視して行いたい。」と語るお二人。本当の一期一会のステージの緊張感、動きが無い故に演技を超えた真情がほとばしる感動が、このロングランを支えているのかも知れません。

今回の公演は渋谷・パルコ劇場にて、6月14日から25日にかけての間で7回行われます。
詳細は同劇場の公式サイトでご確認ください。
パルコ劇場30周年記念
300回記念公演
『ラヴ・レターズ』
作:A.R.ガーニーJr. 訳・演出:青井陽治
6月14日(土)19:00 寺脇康文/戸田恵子
6月15日(日)19:00 パパイヤ鈴木/鈴木裕美
6月16日(月)19:00 松重豊/戸田菜穂
6月18日(水)19:00 伊原剛志/松下由樹
6月20日(金)19:00 小橋賢児/中山エミリ
6月23日(月)19:00 春風亭昇太/森奈みはる
6月25日(水)19:00 平幹二朗/杜けあき