森光子の『放浪記』、『放浪記』の森光子・・・
昭和36年の初演以来、42年間で上演を重ねること1572回。日本の演劇史上、同一主演者の舞台としては最多を誇る名作『放浪記』が、2003年8月末より2004年3月末まで、4都市で159回の公演を行うこととなり、その製作発表会見が都内で行われました。
昭和26年に47歳で急逝した作家、林芙美子の半生を描いたこの作品は、彼女との交流もあった故菊田一夫氏の作・演出、そして森光子さんの初主演作として芸術座で初演の幕を開けました。
ちなみに、芸術座のロビーには過去に上演された舞台の写真が年代順に飾ってあり、この初演時の舞台写真も見ることが出来ます。
昭和56年の上演からは、昭和48年に亡くなった菊田氏に代わって、故三木のり平氏が演出を担当。三木氏の新演出と潤色によりさらに磨き上げられた舞台は、以降1〜3年の間隔で再演を重ねることとなり、平成2年には上演回数1,000回を記録。そして、昨年3月までに1572回の上演を数えて、日本演劇史に残る名舞台となりました。
今回、林芙美子のライバルでもある日夏京子役に初めて挑む、黒柳徹子さん、樫山文枝さんと共に記者会見に臨んだ森さんは、「年齢が増えるにつれて凄さが解かる台本で、初演の時は私なんかを主役にして菊田先生にご迷惑がかからないだろうか、お客様が沢山入ってくださればいいと思いながら演っていました。」と振り返ります。
そして、自宅の押し入れから持ってきたという初演の時の台本を公開して、「菊田先生には一度も誉められたことがなかったのですが、10年経って昭和46年に再演の初日を開けた時に「10年間、ムダ飯、食ってなかったな」と言われたことを、最高の誉め言葉として心にしまっております。」と思い出深い様子。
今回の公演で上演回数が1731回に達することについては「上演回数は余り感じませんけれど、42年と言う年月はずっしりと感じます。」とのコメント。
また、三木氏の演出を基に演出補として参加する本間忠良氏は「前回の公演の時に「芝居のメリハリがはっきりした」という声を多く聞きました。これは森さんが進化してらっしゃるからで、『放浪記』はまだ進化の途中だと思います」と語り、森さんの心身ともにたゆまぬ努力と前向きの姿勢がこの舞台を支えてきたのだと感じさせます。
新たに、黒柳徹子・樫山文枝のお二人を迎え、さらに新しい息吹を吹き込まれる『放浪記』。会見でも、黒柳さんのマシンガン・トークに、おっとりと答える樫山さん。それぞれに新しい日夏京子像を創って、これからも『放浪記』は進化を続けるのでしょう。