「ふるさとは遠きにありて思ふもの」
といえば、誰方でもご存知の室生犀星による詩の書き出しですが、この詩をモチーフに、同じ室生犀星の短編小説「簪(かんざし)マチ子」を原作にした舞台、『簪マチ子
-幸せのとなり-』が9・10月に東京・日比谷の芸術座で上演されることとなり、その舞台稽古が行われました。
題名にもなっている主人公の「簪マチ子」は心優しい女スリ。銀の簪ばかりを狙うので付けられた仇名です。今回の舞台化にあたっては、時代を現代から明治末期に、場所を大森から浅草へと変更し、原作にはない人物も登場させるなど、脚本の菊村禮さん、演出の石井ふく子さんらが、その世界を膨らませて仕上げました。
出演は、「家庭」に憧れながら、過去に哀しい運命を背負って生きる女スリに佐久間良子さん。スリの役は長い女優人生の中で初めてとのことですが、スリの扮装として男装姿も披露してくれます。
共演は、女スリの妹分でドライで明るい「振袖お絹」に中田喜子さん、マチ子の旧知の隣人で泥鰌屋のおかみ「おりき」に赤木春恵さん、マチ子と恋に陥ちる帝大の講師「二宮徹」に田中健さん、さらに松山政路さん、森宮隆さん、植草克秀さんら個性と華を持った方々が揃いました。
最後の舞台稽古を前に佐久間さんは「芸術座は久しぶりなので、目の前のお客さまと視線が合うとドキドキします。慣れるまでは大変ですね。」と言いながらも、深い役作りに対する自信の程が伺えます。
艶やかな振袖姿の中田さんは「財布をスル場面でバレないだろうかとか、劇中で披露する手品のこととか、色々と気になっています。」とコメント。
赤木さんは「これから頭の中を整理して、色々考えなくてはならないが、人生の思いは時代によって変わらないと感じましたし、自分に重ね合わせて共感できるので、自分の中の感情を出して演じていきたい。」とベテランらしく落ち着いて話します。
2ヶ月に渡る長期公演。健康法を聞かれて「チームワーク良く、楽しく演ること」と笑顔の出演者たち。
室生犀星の産み出した、美しく侘しく、そして芯の強い女性の想いが、初秋の芸術座を彩ります。
公演は9月1日(月)から10月28日(火)まで、
東京・日比谷の芸術座にて
お問い合わせは 03-3591-2333 芸術座まで
東宝公式サイト