「樅の木は残った」「赤ひげ診療譚」「さぶ」などの小説でお馴染みの山本周五郎原作『初蕾』(はつつぼみ)が、5月3日より6月30日まで日比谷の芸術座で、橋田壽賀子=脚本、石井ふく子=演出により公演されることとなり、その製作発表会見が都内で行われました。
この作品は1975年に名鉄ホール11月公演として長山藍子、山岡久乃、池内淳子ほかの出演で上演されて以来、数度の舞台化が行われており、また、昨年暮れには山本周五郎生誕100年記念番組として、宮沢りえ、東山紀之、池内淳子ほかの出演により放送されましたので、御存知の方も多いかもしれません。
今回の舞台では、昨年の放送で梶井良左衛門を演じた宇津井健さんが、同じ役どころで14年目ぶりに芸術座の舞台に立つのを始め、今回が映画・TV・舞台を通じて時代劇初挑戦となる京野ことみさん、過去に同作品に出演された池内淳子さん、大空真弓さんらが出演しての上演となります。
実は、今回の演出を務める石井ふく子さんを含め、宇津井さん、池内さん、大空さんは新東宝(映画会社・1947年〜1961年)出身の先輩後輩。しかもTV・映画では共演はあっても、3人揃っての舞台共演は初めてということで、会見場はまるで同窓会のような和気藹々の雰囲気に包まれます。
演出の石井さんは演出プランを聞かれて「これは派手な芝居ではなく人間の心の中の芝居なので、それをどう表現するかがポイント。こういった向かい合った人間像は今の時代に失われているので、その向かい合った人間像を創っていきたい。」と意欲を見せます。
そして宇津井さんは「緊張感を千秋楽まで持続していきたい。共演の2人は舞台では先輩なので心強いし、初日に向けて掘り下げたい。以前の舞台では尊敬する山村聰さんが演られていた役なので、演り甲斐があるし少しでも近づきたいと思っています。2ヶ月の長丁場なので、身体の維持・体調の維持に神経を使っています。」と、準備に余念がありません。
こうしたベテラン陣に囲まれた京野さんは「緊張していて昨夜も寝られませんでしたし、今も手に汗を掻いています。」と言いながらも、稽古開始に先だって演出の石井氏の特訓を受けるなど、やる気は充分。「お民は本当の愛情を知らず、他人からの優しさの受け取り方も知らず、自分にも素直になれない女性。優しさ、暖かさ、光みたいなものに触れて、温もりを知っていく心境をひとつひとつ丁寧に演じたい。」と既に役創りに取り組んでいる様子。
今回「お民は(冒頭では)18歳なのでなるべくフレッシュな方と取り組みたい」という事でキャスティングされたそうで、初の時代劇挑戦にも「人の気持ちは変わらないと思うので、そういうことを大切にしながら、所作は学んでいきたい」と語り、池内さんに「きっと時代劇が好きになるわよ。」と言われて「スポンジの様に全てを吸い取りたい」と前向きな姿勢を見せます。
「観た方が暖かくなって劇場をふわふわと暖かくて優しい気持ちになって出て欲しい。」と言う京野さん。芸術座に、そして時代劇に新しいファンが増える舞台となりそうです。