性に悩む思春期の少年少女の内面と、彼らを取り巻く社会道徳との軋轢を描いた問題作『春のめざめ』(1891)でも知られるドイツの劇作家、フランク・ヴェデキント。
そのヴェデキントが、男女を問わずあらゆる者を魅了し破滅に導く謎と官能に満ちた女性“ルル”を主人公に描いて、“ルル2部作”と言われる『ハンドラの箱』『地霊』。
アルバン・ベルク作曲のオペラの原作としても広く知られているこの2本の戯曲を、俳優・演出家として精力的な活動を続ける白井晃氏が構成・演出した舞台『ルル』が、4月8日の世田谷パブリックシアターでの初日を前に、公開舞台稽古を行いました。
退廃の甘い香りと倒錯した性のイメージに満ちた禁断の物語。あらゆる男の欲望に火をつけ、燃え上がらせる運命の女。あらゆる男の幻想を誘い、溺れさせる宿命の女。「ある時は少女、ある時は聖母、ある時は官能そのもの」という、この難役の主人公に挑むのは、小劇場から翻訳劇、ミュージカルまで幅広い活躍をみせて高い評価を得ている秋山菜津子。
そしてルルへの愛情に激しく揺れる魂の漂泊者シェーンにはドラマ・映画でも大活躍の古谷一行。クールで陰影に満ちた魅力的な悪の存在をどのように演じてくれるのか、大いに期待したいところです。
さらにルルの虜になっていく女性に根岸季衣、ルルによって滅びていく男たちに増沢望、浅野和之、小田豊、みのすけ(ナイロン100℃)、岸博之、石橋祐、まるの保、と個性的な実力派が顔を揃えました。
舞台稽古の後、会見に応じた古谷さんは「既に北九州で4公演を終えているので、全く初めての時とは違いますが、少し間が開いたので自分の中では色々チェックしています。」と落ちついた様子。
演出の白井氏の粘り強い稽古にも「この年齢になると中々言って貰えないので、新鮮でありがたい。」と笑顔を見せます。
北九州では観客に呼びとめられて「素晴らしかったです。明日も当日売りでもう一度観ます」と言われたそうで、「振付でも今までとは違う感じがするし、音楽面も評判がいい。」と舞台の出来映えには充分の手応えを感じている様子。
今回の見所を「ルルという女性を、男を破滅させていく悪女とは捉えずに、天衣無縫、社会の枠に囚われない女性として描いていて、そこに社会のしがらみを持った男達が寄って行って自分の世界に引き入れる事が出来ないで破滅して行く、という構図を持った舞台。」と話す古谷さん。
「ラストシーンのお客様の印象が気になります。ルルに思い入れて観ていただければ。」と、翌日から始まる東京公演に向けて、意欲を見せていました。
また、この公演はスタッフにも注目。脚本は昨年の『ファウスト』『星の王子様』でしてきな世界を展開させた能祖将夫。美術に『ファウスト』『ピッチフォーク・ディズニー』など印象的な数々の舞台を手掛け、昨年には『Pacific
Overture』でブロードウェイデビューを果たした松井るみ。振付にはコンテンポラリーダンスの雄“イデビアン・クルー”の井出茂太。という豪華な顔ぶれ。
さらにこの舞台で重要な要素となる音楽と映像を担当するのは「nido」。聞きなれない名前かも知れませんが、そのメンバーは「Dragon
Ash」の古谷建志(ギター、ベース)、俳優の武田真治(サックス)、そしてキーボードと映像パートの4人のユニット。
エレクトロニカを中心としたサウンドと、音楽を視覚化するヴィジュアルのより高い地点での融合を目指した創作活動を行っている彼らの最先端の音楽が『ルル』を包み込みます。
19世紀末ドイツ禁断の物語が、スタイリッシュな舞台として現代に蘇ったこの作品。
危険な薫りに満ちた男と女の物語は、ラストシーンまで観客を捉えて離さない魅力に満ちた舞台となりそうです。