パルコ劇場の公演では脚本家として演出家のG2とタッグを組み、『人間風車』『ダブリンの鐘つきカビ人間』『MIDSUMMER
CAROL〜ガマ王子vsザリガニ魔人〜』と、その不思議で魅力溢れる独特の世界観による話題作を送り出してきた、後藤ひろひと。
俳優・演出家としての顔も持ち、その創り出す世界に負けない個性的なビジュアルと怪演で演劇界では“大王”と称される後藤氏が、同劇場では初めて作・演出、そして出演もする新作『Shuffle
〜シャッフル〜 』の公開舞台稽古が、初日を翌日に控えた4月15日に報道陣・関係者を集めて行われました。
今回、後藤氏が書き下ろしたのはノンストップ・ラヴ・コメディ、と言ってもそこは“大王”らしく一癖も二癖も有るお話。敏腕だが女癖が極端に悪い刑事・乾登志貴(いぬいとしき)=通称“シャッフル”は、数十億円といわれるダイアモンドを盗んだ窃盗団を、警備を担当した女性警備員・三つ葉幸子と一緒に追跡中に高所から転落、そのショックでとんでもない事態に陥ります。
それは、記憶の中に在った人物の顔・姿がバラバラに入れ替わってしまっていること!
同僚、上司、女性警備員、窃盗団、憧れの女性、誰が誰やらのシャッフル状態。しかもそれが、あるショックを受ける度に再度シャッフルされるという非常事態。
さらに入院先の看護婦や、彼に捨てられて復讐鬼と化した女性もが別人の姿で出現します。
見た目だけで人間を判断していたシャッフルは、中身で相手を見分けられるのか? 窃盗団の逮捕は? この病気はどうなる? 女性警備員との仲は? 一瞬たりとも目が離せない展開に、笑いながら、ドキドキしながら、でも胸がキュンと高鳴りちょっぴり切ない気持ちにもなるラヴストーリーです。
主人公の刑事・シャッフルを演じるのは伊原剛志。83年のパルコ劇場『真夜中のパーティ』で俳優としてスタート、以後、映画、テレビで幅広い役柄を演じ、硬軟を巧みにこなせる伊原さんが2枚目半の新しい魅力に挑戦します。
“ちびで眼鏡の冴えない博多弁の女”というヒロイン、三つ葉幸子には、2年ぶりの舞台出演となる奥菜恵。演技力の確かさに定評のある奥菜さんが、後藤ひろひと氏の設定する一癖もふた癖もあるヒロインをどう創り上げていくのでしょうか。
そしてこの二人を囲んで、入れ替わり立ち代りの人間模様を演じるのは、ベテラン俳優の鹿内孝、小劇場出身で今やあちこちの舞台でひっぱりだこの山内圭哉、三上市朗、澤田育子、宝塚出身で華やかな存在感の風花舞、その独特の体型で存在感抜群の平田敦子、吉本興業からお笑い出身の松谷賢示、作家の後藤ひろひと、そして主人公・シャッフルの理想の女性として設定された石野真子が本人役で出演するという異種格闘技のようなキャスティングが勢揃いしました。
公開稽古を前にして会見に応じた後藤さん、伊原さん、奥菜さんの三人は、「もう一ヶ月ちょっと稽古をやってきましたから、早く皆さんにお観せしたくてしょうがない。僕の気持ちも(衣裳と同じ)まっ黄色で、派手な舞台です。」(伊原さん)「私は(黒の衣裳のように)こんな地味な役ですが頑張ります。」(奥菜さん)「お客様に観て貰ってから舞台はどんどん良くなると思いますので、早く公演したいですね。」(後藤さん)と、それぞれ出来上がりには自信のコメント。
「アメリカンコミックの様な舞台にしたいと思い、役者も特徴の有る方に集まって貰ったのですが、その中でもこの2人は自分の中でイメージ出来たキャストで頼もしい。」と語る後藤さんに、「先日、ジム・キャリーのDVDを勧められて見ましたが、言っているのはこういう事かと思いましたね。彼ほど顔は動かないですが、思いっきり崩して崩して、面白く仕上げて行ければと思います。」と応える伊原さん。今回は色男でセクシーなプレーボーイということで、「実際の伊原とは全然違いますね。」と苦笑い。
とにかくハイテンションな役柄という事で「普段は喋りがゆっくりなので、この舞台が何時間で終わるかは僕の喋りにかかっています。」と力を込めます。
また久しぶりの復帰となる奥菜さんは「個性的で・・・凄くキタナイ役で、この会見時よりもメークではかなり汚くなっています。博多弁なので練習しましたが、イントネーションが慣れるまでは凄く難しかったですね。久しぶりの舞台で、緊張して手に汗を掻いています。」と言いながら、井原さんのコメントに突っ込みを入れるなど和やかな雰囲気。
後藤さんからは「余り気合を入れるな。」と言われているそうで、その訳を「コメディですから、舞台の上で役者が頑張っている姿を見せてしまったらお客さんが引いてしまいます。常に舞台の上で楽しく居られるような稽古をずっとしてきました。」と説明する後藤さん。「お客さんが一生懸命食いついてくれるような仕掛けを用意しながら、どんどんどんどん話が展開して行けたら、凄く面白いな。」と狙いを語ります。
「共演者はみんな面白いですよ。」という伊原さん。「僕は降りまわされる役どころで、登場人物はそのままですが僕が見えている姿が違うということで、色んな役を色んな人が衣裳も変えずにやっていきますから、最初に台本を読んだ時はこんがらがりました。僕の目線がお客さんの目線なので、その辺りをお客さんにどう表現するかと言うのを後藤さんと考えて創りました。拳銃が出て来たり、アクションシーンもありますし、奥菜恵ちゃんも飛んだりはねたり殴ったりけったりします物凄いアクションがあるんです。」との事で、様々な趣向が凝らされている舞台のようです。
「ライブで来ていただかないと解からない部分もあるので是非観て欲しいですね。外が気持ち良ければお客さんも気持ち良く劇場に入ってくるし、雨が降ればうっとおしい感じで入ってくるのし、毎日違うので、そこで空気を一緒に創り上げていくのが醍醐味ですかね。」という伊原さんに、「同感です。ライブ感と言うか、空気感がたまらないですね。」と頷く奥菜さん。
超個性的な俳優陣が魅せる、大王・後藤ひろひと流怒涛のハイパーテンション・ラヴ・コメディは、あっと言う間に2時間が過ぎて行くパラレルな世界。
様々な人間模様が複雑に入り組む後藤ワールドは、常に観客の予想を越えた世界を提供し続けてくれる第一級のエンターテインメント・テーマパークと言えそうです。