2005年5月:名古屋、6月:東京で上演されたミュージカル『ラ・マンチャの男』は、6月30日に有楽町の帝国劇場で千穐楽を迎えましたが、主役のセルバンテス/ドン・キホーテを演じた松本幸四郎さんにとっては、ミュージカルの通算出演回数が、この千穐楽で丁度2000回を達成するという記念の公演となり、それを記念した特別カーテンコールが行われました。
1965年に22歳の若さで『王様と私』(アンナ役:越路吹雪)で、そのミュージカルのキャリアをスタートさせて幸四郎さんは、その後もブロードウェイ・ミュージカルや和製ミュージカルに出演、40年かけてこの記録に到達しましたが、中でも『ラ・マンチャの男』は、この千穐楽をもって1086回目となり、自らのミュージカルでの同一主演者による日本最高記録を更新し続けています。
記念となる千穐楽の日、観客の熱い拍手の中で、いつものようにカーテンコールで「♪Inpossible Dream(見果てぬ夢)」を英語で歌い上げた幸四郎さん。客席は「ブラボー!」の歓声と拍手が飛び交う総立ち状態の中、頭上から「『ラ・マンチャの男』祝千穐楽 松本幸四郎
ミュージカル出演2000回達成!!」と書かれたパネルが降りて来ると共に、再び全出演者がステージに整列します。
舞台中央に進み出た幸四郎さんの、これまでの輝かしい軌跡が紹介された後、スペイン大使館文化担当参事官・ギジェルモ・キルクパトリック氏より、王立スペイン造幣局より今年発行されたセルバンテスの「ドン・キホーテ」初版本出版400周年記念金貨・銀貨のセットと感謝状が贈呈されます。
幸四郎さんは「muchas gracias(ありがとうございます)」とスペイン語で御礼を述べた後、「私はこの7月に初めてスペインを訪れます。ラ・マンチャ地方ももちろん訪れます。でもご安心下さい、風車に向かって突進はしませんから。」とユーモアたっぷりのコメントで場内の笑いを誘います。
続いて、5月に名鉄ホールで公演を行った、愛知県花き温室園芸組合連合会ばら部会より贈られた真紅の薔薇の花束を持ち、今回より演出補となって幸四郎さんを支えた長女の松本紀保さんが登場、舞台上で固い握手と抱擁を交わします。
薔薇の生産量が全国一という愛知県からは、2000回達成を記念して2000本の薔薇が贈呈されたということで、この日の観客にも記念として贈られることが告げられると、再び大きな拍手が起こります。
その拍手の中、進み出た幸四郎さんからの御挨拶が始まります。
「今日はどうもありがとうございました。22歳の時に『王様と私』というミュージカルに初めて出まして40年、今日ここに2000回のステージを踏む事が出来ました。もう多くの方々に御礼を申し上げなければなりません。まず東宝演劇部の皆さん、帝劇の皆さん、そして私は歌舞伎俳優でございますから、私が『ラ・マンチャ』が出来るのも松竹さんの御理解が有っての事で(場内笑)、この興業会社の方々の演劇人としての良心、「いい芝居を創るためなら、歌舞伎もミュージカルも無いんだ。」という、その演劇人の良心がこの幸四郎に『ラ・マンチャ』をさせてくださっていると思っております。
それから先ず、今回はまた素晴らしいキャストに恵まれました。長年演ってくださっている牢名主の上條恒彦さん、相棒のサンチョ・パンサの佐藤輝くん、カラスコ博士の福井貴一くん、それから今度新しく加わってくださった山崎直子ちゃんでございます、アントニオお疲れさま。それから神父の石鍋さん、荒井さん、駒田さん・・・、そして廷吏の皆さん、護衛兵の皆さん、ご苦労様でした、お疲れ様でした。
それから、オーケストラの皆さん、福井さん、どうもありがとうございました。それから塩田さん、どうもありがとうございました。帝劇の照明さんも、それからこのステージを毎日毎日磨いて掃除をしてくださっていた大道具さんたち、ありがとうございました。
そして、演出部も新しい者が加わりまして、新しい若い演出部が何人か加わって一生懸命やってくれました。我々は36年前にこの帝劇で『ラ・マンチャ』を初演いたしました。その36年前は我々が『ラ・マンチャ』から光を貰ったんですけれども、最近加わったオーケストラの皆さんも、出演者の皆さんも、それから紀保を始めとする演出部の若い皆さんも、どんどん新しい『ラ・マンチャ」に光りを与えて下さっています。そして・・・紀保は全ステージ観たんだね? 全部で名古屋と東京を合わせると80ステージ近くなると思いますけれども、そのステージを毎日観て勉強致しております。そして何よりも、この劇場に足を運んで下さいましたお客様方のお陰でございます。本当にありがとうございました。
私が22歳の時に『王様と私』に出ました40年前は、日本でミュージカルは、1年間に上演されているのは1、2本でした。それが今は、毎月何処かで必ずミュージカルが上演されております。ますます日本のミュージカルが盛んになりますように。特にこの『ラ・マンチャの男』の灯をどうかいつまでも灯し続けていただきたいと思います。
夢とは、ただ夢見るだけのものでもなく、ただ語るだけのものでもなく、夢とは、夢を叶えようとする、その人の心意気。この心意気さえあれば、夢は叶います。ありがとうございました。」
力の入った締め括りの言葉に、満場割れんばかりの拍手が巻き起こり、深々一礼をする幸四郎さん。
そして、最後は劇中のラストで歌われる「♪見果てぬ夢」を松たか子さんのリードからキャスト全員での大合唱で記念の特別カーテンコールは終了となりましたが、鳴り止まぬ観客の拍手に、幸四郎さん始めとするキャストは何度も客席に礼を繰り返しながら応えていました。
2000回の記録内訳
ラ・マンチャの男 |
1,086回 |
王様と私 |
478回 |
心を繋ぐ6ペンス |
137回 |
歌麿 |
89回 |
スウィーニィ・トッド |
80回 |
屋根の上のヴァイオリン弾き |
75回 |
ゼアミ |
55回 |