「女優・佐久間良子」と言えば、東映ニューフェイスとしてデビュー以来、100本を超える映画、そして数々の舞台やTVに出演。近年の舞台では『唐人お吉』『新版滝の白糸』『桜の園』『鹿鳴館』などで、美しく品の良い役をこなす日本を代表する女優の一人であることは、申し上げるまでもありません。
その佐久間良子さんが、「こうした役はこれが始めて。女優生命を掛けて取り組みます。」と語る舞台、『好色一代女』が現在、東京・銀座のル テアトル銀座で上演中です。
この作品は元禄時代「好色五人女」や「好色一代男」など多くの優れた浮世草子を残した井原西鶴の「好色一代女」を原作に、全6巻を一つの大きなストーリーとして集約して新しく構成されたもの。
高貴な生まれ・育ちをしながらも、何の因果か身を落とし、やがては太夫にまで上り詰め、男遍歴を重ねて生きていく一人の女性が描かれています。
都のほとり竹林の奥の庵に住み、美少女みろくにかしずかれ、訪れる人に自分の数奇な人生を、とりわけ男出入りのあれこれを面白く語るという、美しくも謎に満ちた尼・花子。
10代の頃から65歳まで、島原の太夫から大阪の場末のW立ちんぼ女郎”まで一生をさまざまなセックス(お色気)産業に生きてきた彼女ですが、暗さは微塵も無く、一生を振り返り、風俗業に生きてきたからといって「心までも濁りはしない…。」と言い放つ。
その一生の色懺悔(いろざんげ)は本当のような嘘なのか、嘘のような本当なのか、聞く者が目を丸くする冒険ものがたり。腹をかかえて笑ってしまう話もあって、まことに陽気で気持ちがよく、聞く者をいつしかその物語の世界に引き入れます。
このミスマッチとも思える役どころを、大劇場で座長を務める佐久間さんが、あっけらかんと陽気に演ってのけるのが、この公演の一番の見所。
「今まで抱かれていたイメージを裏切る作品に取り組んでみたい!」と意欲的に取り組み、着物の裾をはだけて男性の上に跨るなど、文字通りの体当たりで演じ切ります。
共演には将来の歌舞伎界を背負って立つ逸材として期待されている市川亀治郎。つかこうへいの舞台で数々の主役をこなした実力派の山崎銀之丞。中性的で年齢不詳の魅力で蜷川作品にも数多く出演し、その演技力の高さには定評のある宮本裕子。60歳を超えていよいよ円熟期に入った近藤正臣。そして良質な喜劇の舞台には欠かせない存在の谷啓が花を添えます。
音楽を担当するのは、島健。現在のミュージックシーンを飾る数多くのヒット曲の作曲を手掛けるほか、ジャズピアニストとしても高く評価されている彼が、全編を通してオリジナル曲で臨み、さらには津軽三味線の天才奏者として名を馳せる、上妻宏光の演奏がこれに加わります。
演出は、繊細かつそのセンスの良さで、今、演劇界で最も活躍している山田和也。元禄時代にこだわらない現代風の衣裳やヘアーメイク。幻想かつ妖艶な雰囲気を創り出す照明など、これまでの既成概念を覆す数々の仕掛けが凝らされています。
純粋な和物芝居ではありながら、ミュージカルのようにお洒落で、コメディ映画のように陽気で、しかも根底にはしっかりとしたテーマを持つこの舞台。
小劇場では見られない本格的な芝居でありながら、大劇場の古風な風俗劇には無い、軽やかで品のいいお色気と笑いに満ちた作品の誕生は、これまでの芝居に飽き足らなかった多くの人たちの注目を集めそうです。