明治時代に、正式な国際結婚第1号として18歳でオーストリア=ハンガリー二重帝国代理公使、ハインリッヒ・クーデンホーフ=カレルギー(Heinrich
Coudenhove-Kalergi)伯爵(1859-1906)と結婚、その後、2人の子供を連れて夫と共にオーストリアに渡り、さらに5人の子を儲け、夫の死後は、「黒い瞳の伯爵夫人」としてヨーロッパ社交界の花形であった、ミツコ・クーデンホーフ=カレルギー伯爵夫人(1874-1941)。
日本在住中にその2人の間に生まれた次男で、ヨーロッパの全ての国が合体して一つの国になるべきだという「パン=ヨーロッパ」思想を打ち立てて、パン=ヨーロッパ連盟を設立。欧州共同体(EC)から欧州連合(EU)へと続く現在のヨーロッパ統一の礎を築いたリヒアルト・クーデンホーフ=カレルギー(Richard
Nicolaus Coudenhove-Kalergi)伯爵。(1894-1972)
日本とオーストリア、2ヵ国を深く結びつける架け橋となった、この3人の親子を描いたミュージカル・コンサート『MITSUKO』が、2005年12月9日、オーストリア・ウィーンのMuseumsquartier
Hall Eで行われ、日本から訪れた熱心なファンも含めた観客が一日限りの貴重な舞台を堪能しました。
公演は2部構成になっており、第1部は、コンサート形式で上演されるミュージカル『MITSUKO』。
脚本・演出を手掛けたのは、日本の宝塚歌劇団の演出家であり、『エリザベート』『モーツァルト!』などを始め、ミュージカル・コンサートなど宝塚以外での演出活動も多い小池修一郎。音楽は数々の有名アーティストに楽曲を提供し、また『ジキル&ハイド』『スカーレット・ピンパーネル』などのミュージカルも手掛けるフランク・ワイルドホーン。作詞は『シヴィル・ウォー(南北戦争)』でトニー賞にもノミネートされたジャック・マーフィー、と文字通りワールドワイドなスタッフが創り出したステージです。
出演者は、タイトルロールのミツコに元宝塚歌劇団トップスターで、退団後も『王様と私』『エリザベート』などのミュージカル出演を始め、舞台、テレビ、コンサートなど多彩な活動を精力的に行っている一路真輝。
その夫ハインリッヒには『エリザベート』のオリジナルキャスト(トート)であり、様々なミュージカルでも主要な役を演じる傍ら、日本でもCDが人気となっているウヴェ・クレーガー(Uwe
Kroeger)、
そして次男リヒアルト(17歳〜42歳)には『エリザベート』で日本のミュージカルシーンに鮮烈なデビューを果たし、以降もミュージカル、ストレートプレイなどの舞台や、コンサート、CD発売など幅広く活躍の井上芳雄。
このソリスト3人に加えて、ミツコの両親や親戚、リヒアルトの妻になるイダなども演じるコーラスが男女4人づつ、そしてナレーター(45歳のリヒアルト)のボリス・イーダー(Boris
Eder)がステージを勤めます。
オープンなステージ奥にはオーケストラが陣取り、舞台前には2つの椅子と譜面台が誂えられています。その左右ににはコーラスのための椅子とマイクが4つづつ並び、さらにその横にナレーター用の椅子が置かれた舞台。
コンサートはBoris Eder が扮する45歳のリヒアルトが進行役となって両親を振り返る形で始められ、曲と曲の合間にもナレーションを挟んで進行します。前半ではハインリッヒとミツコの出会いから結婚、渡欧からハインリッヒの死までが、後半ではリヒアルトが登場して、イダとの結婚、ミツコの苦悩、そして「パン=ヨーロッパ」構想を打ち立てるまでが、全17曲のナンバーに乗って描かれます。
歌詞はドイツ語を中心に、状況に応じて英語、日本語が使われ、1時間10分の間、観客は100年以上前に異国の地で一人強く生き抜いた日本女性と、80年前にヨーロッパの統一を唱えて「欧州連合の父」と呼ばれたその息子の生涯に、心を馳せたのでした。
第1部終了後には、作曲者であるワイルドホーン氏、作詞のマーフィー氏、そして演出の小池氏も舞台に呼び出され、観客からの盛んな拍手を浴びていました。