恒例 三越劇場 初春新派公演 2014年は『明治一代女』
左より:佐藤B作、波乃久里子、水谷八重子、市川春猿
2008年、新派120年記念として『新玉の寿』『女将』(作:北條秀司)の上演からスタートした、三越劇場での初春新派公演。その後、毎年の恒例となり、今年2013年は「新派125年 初春新派公演」として、木下恵介監督の映画(脚本:新藤兼人)を舞台化した『お嬢さん乾杯』で、お正月らしい明るい笑いを客席に届けました。
そして7回目の公演となる2014年は、明治20年(1887年)6月9日の夜明けに浜町河岸で待合「酔月」女将の花井梅が番頭の峰吉を刺し殺したという実際の事件を元に書かれた名作『明治一代女』が15年ぶりに上演されることとなり、出演者が抱負などを語りました。
元・芸妓が箱屋(三味線などを運ぶ付き人)を刺し殺すという実際にあった事件は、当時からセンセーショナルを巻き起こし、翌年には五代目尾上菊五郎一座により歌舞伎『月梅薫朧夜』(作:河竹黙阿弥)として上演、大正時代には新派で『仮名屋小梅』(伊原青々園作,真山青果脚色)を河合武雄・喜多村緑郎一座が上演するなど、これまで音曲・映画・演劇など数々の題材として取り上げられて来ました。
その中でも昭和10年(1935年)、作家・川口松太郎によって書かれ、新派で花柳章太郎らにより初演された『明治一代女』は大評判を呼び、以来上演を重ねて練り上げられて来たほか、映画化(監督:伊藤大輔)、歌謡曲(作詞:藤田まさと 作曲:大村能章)など、一世を風靡しました。
『鶴八鶴次郎』『風流深川唄』と立て続けに発表し、第1回直木賞を受賞した川口松太郎が最も脂の乗った時期に書かれた『明治一代女』は、柳橋芸者の叶家お梅と人気役者の沢村仙枝、仙枝をめぐる芸者秀吉との達引き、お梅を慕う箱屋の巳之吉という四人の男女の関係を中心とした悲劇として描き、洗練されたテイストで他の“お梅もの”よりも純愛に仕立て上げられいて、新派のみならず、様々なキャストでも上演されて来ています。
今回、初演の花柳章太郎以降、初代水谷八重子、五代目坂東玉三郎などが演じて来たお梅を務めるのは、十七代中村勘三郎を父に持ち、昭和37年の劇団新派入団以来、初代・水谷八重子に師事し、古典から現代劇、翻訳劇に至るまで様々な舞台で活躍のほか、テレビドラマや映画出演なども多く、芸術祭優秀賞(1972年)芸術選奨新人賞演劇部門(1979年)菊田一夫演劇賞(1991年)などを受賞し、2011年には紫綬褒章を受章した、波乃久里子。
1980年の三越劇場、1999年の博多座・新橋演舞場に続いてのお梅役となります。
その相手役でお梅と恋仲である仙枝は、中村雀右衛門・片岡仁左衛門・澤村宗十郎:澤村藤十郎:中村信二郎(現:二代目中村錦之助)ら、歌舞伎俳優が歴代演じて来ました。今回も歌舞伎界から、その個性的なキャラクターでトーク番組、バラエティ番組の出演も多くなっていますが、1996年には歌舞伎座賞、2007年に松尾芸能賞新人賞を受賞し、清純と妖艶を併せ持つ美貌の女方として、これからの活躍が大いに期待されている、二代目・市川春猿。
2002年、ル テアトル銀座での自主公演ではお梅役を演じましたが、今回は立役に挑みます。
お梅を一途に思い、故郷の田地田畑を売り払って慕い寄る巳之吉には、昨年に創立40周年を迎えた「劇団東京ヴォードヴィルショー」を主宰し、人柄そのままに庶民的で暖かく飄々とした演技から、人の優しさや純朴さを表現する演技にも定評があり、映画、ドラマなど映像にも引っ張りだこの、佐藤B作。
新派公演には『香華』(2010)『三婆』(2013)に続いて三回目の出演となります。
そして、仙枝を巡ってお梅に敵対する芸者・秀の家秀吉には、父親に十四代守田勘弥、母親に新派の名女優・初代水谷八重子を持ち、1955年に新派公演で初舞台を踏み、以来、水谷良重の名前で舞台、映画、テレビなど幅広く出演し、歌手としても活躍。1995年には1979年に逝去した母の跡を継いで名跡を襲名し、これまでに菊田一夫演劇賞(1978年)松尾芸能賞大賞(1988年)芸術選奨文部大臣賞・文化庁芸術祭賞(1993年)など多くの賞を受賞、2001年には紫綬褒章、2009年には旭日小綬章を受章した、二代目・水谷八重子。
秀の家秀吉役は、1979年3月の新橋演舞場公演(お梅:坂東玉三郎 巳之吉:菅原謙次 仙枝:沢村宗十郎)以来、二度目となります。
記者会見では、15年ぶりに上演する作品やこれまで演じて来たキャストに対する想い、役づくりへの意気込みなどが語られ、質疑応答も活発に行われました。
そのやりとりなどは、こちらにアップしてありますので、どうぞご覧になってください。
泉鏡花、徳富蘆花、川口松太郎などが生み出した数々の名作を、初代水谷八重子、花柳章太郎などの名優が彩って来た新派の舞台。
初代・水谷八重子の薫陶を受け、その芸を受け継いだ現在の新派を代表する二枚看板、水谷八重子と波乃久里子の競演で、新春にふさわしい華やかな舞台となる初春新派公演『明治一代女』。
当代の人々の哀歓を描き、日本人の心の襞(ひだ)に滲み入る新派の世界をどうぞお見逃しなく。
初春新派公演
『明治一代女』
公演情報
スタッフ | 作: | 川口松太郎 |
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演出: | 齋藤雅文 |
キャスト | 叶家 お梅 | 波乃久里子 |
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箱屋 巳之吉 | 佐藤B作 | |
沢村仙枝 | 市川春猿 | |
秀の家 秀吉 | 水谷八重子 |
日程 | 2014年1月2日(木)〜1月26日(日) |
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会場 | 三越劇場 (日本橋三越本店本館6階) |
チケット | 8,500円 (全席指定・税込) |
前売り | 11月30日(金) 10:00より (※三越劇場では12月1日(土)より) |
チケット | チケットホン松竹 0570-000-489 チケットWeb松竹 |