初春新派公演『明治一代女』 記者会見


左より:佐藤B作、波乃久里子、水谷八重子、市川春猿

《ご挨拶》

水谷八重子 来年こそはもっともっと力を入れなくちゃいけないのかな、そんな風に肝に銘じる思いでございます。秀吉という役は私、今度で二度目だと思います。玉三郎さんのお梅の時に秀吉を演りまして、「お前さん、それじゃ駄目だよ」って逆にお梅さんから怒られた覚えがございます(笑)。秀吉というのは少ししか出番がございませんけれども、女の性と言うのか、哀しいストーリーが敵役のようなところに凝縮して入っている役と思っております。短い間にどれだけそれをお見せする事が出来ますか、それが来年初の私の冒険だと思っております。どうぞ宜しくお願い致します。

波乃久里子 お正月早々、お梅を演らせて頂きます、これからも本当に頑張って行かなくちゃいけないと思いますが、まずB作さん春猿さんにお力を貸して頂いて、八重子お姉さま始め新派一丸となって燃えますので、どうか大成功になりますようにお願い致します。

市川春猿 今回は、この初春新派公演に呼んで頂いて本当に光栄に思っております。私自身も本当に新派の作品が大好きで、ここ数年色々な作品を勉強させて頂きました。この『明治一代女』というお芝居は、新派の作品を一回演ってみたいという思いで、――もう10年も前になりますけれど、――自分のリサイタルで取り上げさせて頂いて勉強させて頂いた、本当に思い出深い、思い入れのある新派の作品でございます。今回は立役という事で、私が男の役を演るというのは珍しくて、ましてや「散切り」というカツラを被って舞台に出るというのは、過去に『残菊物語』で福助という役を演らせて頂いた時以来で、人生で二度目でございますので、是非その辺も楽しみにして頂きたいという風に思っております。是非この作品が一人でも多くの方々にご覧頂けるよう宜しくお願い致します。

佐藤B作 本当に私がこの場に居ていいのか、と言う感じが致します。古典でございまして、本当に初めてこういうお芝居を演らさせて頂く事になります。今は不安な事がいっぱいで、お陰様で新派さまには・・・

波乃 新派さま(笑)って・・・
佐藤 『香華』そして『三婆』という二本を演らさせて頂きまして、『三婆』の地方公演の金沢だったと思いますけれども、その時に楽屋に久里子さんがいらっしゃいまして、「B作さんはコテンはやらないの?」という風に言われまして・・・
波乃 「やりたくないんですか?」って聞いたの。
佐藤 「私は絵は描きませんので」という(会場爆笑)、何だか訳の解らない、まさか古典のお芝居だと思わなかったものですから、そのように返事をした覚えがありますが、引き受けたからには、色んな勉強をさせて頂く良い機会だと思って、精一杯演らさせて頂きますので、宜しくお願い致します。

《質疑応答》

●15年ぶりのお梅ですが、演出家も変わるということで、意気込みを教えてください。

波乃 15年も経ったとは思えませんけれども・・・15年なんですね。私は、――本当に旧態依然みたいに思われがちですけれど、――(初代)八重子先生のそのままを写して来まして、今度で三回目を演らせて頂きます。心は先生とは違いますが、形は先生と同じにしたいと思います。情熱みたいなものは良いんですが、先生の形を守るしかないくらい、これは完璧に出来ている作品なんですね。ただ最後は、花柳(章太郎)先生だと初日の時に楽屋で自害するんですが、それは余りにも無礼な事ですよね。今までも色んなやリ方があって、助かって手錠を嵌められて牢獄まで行くお梅もあれば、路上で死ぬ時もあり、良恵(八重子)姉さんのは奈落で死にますね。色々な方法があるんですが、どうしても楽屋入りさせて頂かなくちゃ私は演り難いというか、成立しないような気がして、それは(演出の)斎藤さんにお願いして、その通りに演らせて頂きます。その中で削って行けるものは削って行きたいですけれど、増やすことはしたくないです。出来るだけ八重子先生の型、――新派は型ではないんですね。――形を真似させて頂いて、息吹だけは新しく行きたいと思っております。ビデオをお渡しして、それから自分の工夫をして頂きたいと思います。私の場合はどうしても歌舞伎的な発想になってしまいます。本当はいけないんでしょうけれども、身体に染み付いておりますので、出来るだけ八重子先生に従って参りたいと思います。本当にあれしか女優にとっては演り方が無い気がしてならなくて、浜町河岸の殺しも花柳先生だと半鐘が入ったり派手になさるんですけれど、私の場合は先生がそうだったように、望遠レンズで浜町河岸を本当に見ていたようにやります。明治20年に私の曽祖父の五代目菊五郎が手掛けたものですから、成功するように、まずお爺ちゃまのお墓に手を合わせます。成功するためには面白くなきゃ駄目ですが、それには温度だと思います。だから熱だけは、息吹だけは掛けますが、演出は前の通りに演らせて頂き、先人の事は模倣して行きたいと思います。

●リサイタルでお梅を演じられた思い入れのある演目で、今回の仙枝はどのように演じられますか

春猿 数々の先輩方が演られて来ているお役ですし、仙枝というのは女形の歌舞伎役者ですから、何となくそのまま行けばと思われがちですが、私は本当に立役を演った事が少ないもので、演っても今月明治座で演らせて頂いている(『毛抜』の秦)秀太郎とか、(『青砥稿花紅彩画』(白浪五人男))の赤星十三郎とか、前髪の若衆とかちょっと柔らかい感じの立役しか演らせて頂いた事がないので、本当にどこまで仙枝が務まるか不安ですけれど、やはりさっき久里子さんが仰ったように“気持ち=心”を大切にしてそれを表になるべく出してお客様に感じて頂けるという芝居創りが一番大切なんだろうと思っております。古典の作品ですから、形とかそういう決まり事とかもあるでしょうし、そういうところもきっちり勉強させて頂くつもりで演らせて頂きたいと思います。私が『明治一代女』をル テアトル銀座のリサイタルで演った時は、当時の市川段治郎(現:二代目 市川月乃助)に仙枝を演って貰ったんですけれど、その時は楽屋のシーンも女形ではなく立役の役者さんと言う事にして、口上の格好も立役の口上の格好にしたんですね。彼は背が大きくて普段は立役さんですし、女形の帽子付きの襟を抜いた口上の格好をするとちょっと気持ち悪いんじゃないかというので、立役にしたんですけれど、今回は私はきっちり帽子付きの襟を抜いて女形で演らせて頂きたいと思っております。とにかく気持ちを大切に大先輩の胸を借りて勉強させて頂きたいと思っております。

●劇団の座長として、劇団の先輩である新派から学ぶことはなんでしょうか

佐藤 僕も劇団を始めた時は24歳だったのですけれど、今や64になりまして、――見かけは若いんですけれど結構歳はいっておりますので、――やはり歳を重ねるに連れて自分の芝居の好みは少しづつ変わって来まして、若い時は本当に黙って立って居る事は無くて、動きまくっている方が落ち着くような事が有ったのですけれど、最近はやはり歳になって動く事が大変なようになって参りまして、静かな演劇というものにも少しずつ興味を惹かれて来ている自分があるのは確かでございます。こういう所で学ばせて頂いて、どこまで劇団に持ち帰れるかは解りませんが、思い切って再来年あたり劇団(東京ヴォードヴィルショー)で『明治一代女』をやってみたい・・・

(場内爆笑)

波乃 私、呼んでね(笑)ゲスト出演で。
佐藤 若い時はそんな無茶苦茶な事をやっていたんですけれども、1月2日から26日まで、大先輩の方と三越劇場でこのような素敵なお芝居をやらさせて頂いた後に、自分がどういう気持ちになっているかという事を非常に楽しみに取り組まさせて頂きたいと思っております。

●今年はNHKの大河や朝ドラも明治が背景ですが、明治の女性の強さ美しさはどのようなところにあるかとお考えですか

波乃
 例えば芸者さんの場合は、――私の叔父の祖母が芸者でしたから、その祖母から聞いた話だと、――今の芸者さんよりもっと貧乏だったから現実的だった、だから芸者さんももっとプロだった、と。話は違いますが『婦系図』のお蔦、「あれは現代劇よ、現代よ。あんな貧乏学者に嫁ぐ芸者なんて明治には居ないわよ。」と言っておりました。だから、お蔦に限れば、「こういう芸者さんが居たらいいな」という事で、泉鏡花の明治時代の本当の理想だったんじゃないか、だから私は現代劇だと思っています。だって本当にそうですよね。貧乏で貧乏でどうしようもない芸者さんが貧乏学者に嫁ぐ訳が無いんですよね。私は明治の花柳界の場合は、本当にお金の貧しさから入った芸者さんが多いという気がします。明治の芸者さんにしろ、お梅にしろ、本当にお金に困ったところから入るんじゃないんでしょうか。この話は本当にあった話で、結局お金から始まって、そして意地、そのために悪女になってしまう。本当にお梅はいい女だと思うんですよ、でも悪女になる瞬間はやっぱりお金からじゃないんでしょうかね。明治の女性が強いかどうか、私には解りません。おばあちゃまの話だと明治の女性というのはドライだったと聞きます。

水谷 今まで男の下にじっとしていた女が、世の中ががらっと変わったがために、色んな事をさせられて行く。留学生の第一号が出てくるのも、ちょうど幕府が倒れた時に会津藩の大山捨松の親が「もうここに居ても仕方が無いから」と外国にやって、それが留学生の第一号で、そして学んで来たことが看護婦。「これは女性にとって一番良くて向いている仕事ではないか」って捨松さんは考えて、自分がその資格を取って、学校を日本に帰って来てから始めた。看護婦という職業は女性に向いている・・・今は男性と差別しちゃいけいないというので看護師にまた名前が戻っていった・・・捨松さんはどう思っているかな、なんて思うんですけれど、本当に明治のガラッと変わった時代に生きた女というのは、どの人を取り上げても皆面白いんじゃないか、そう思っております。

●巳之吉というのはお梅に狂うように恋する役ですが、波乃さんとの共演と巳之吉の役づくりを教えてください

佐藤 本当に一番難しい質問で・・・
波乃 簡単でしょ(笑)
佐藤 ビデオも拝見しまして、波乃さんのヴァージョンと・・・
波乃 役づくり無しで出来るんじゃない、恋い焦がれりゃいいんだから(笑)
佐藤 あんなに一途に人を愛して、田畑を全部売り払って、そうしたら「前の男を忘れられない」と言われた時の男の悲劇ですよね。で、結局殺さないと自分のものにならないと言う事なんでしょうけれど、最近良く有る事件のストーカーと良く似ているな、という気が凄くしています。本当に今はどう演るかなんて何も考えていないんですけれど、唯一僕の拠り所は巳之吉が地方出身者だという事だけなんですね。地方から出てきて江戸で箱屋をやっている、という所だけが、――僕も東北の福島出身で東京に来ているので、――地方者が江戸に来た時の大変な事、江戸で初めて出会った女性への憧れ。僕も色々若い時代には酷い目にあっておりますので、・・・手の届かない花を何度追いかけた事か・・・「ああ、田舎時代にモテてた俺は東京時代に随分挫折したなあ」という事がありまして、その辺もあるのかな、叶わぬ人に恋してしまったのかな、という思いもあります。そんな事を考えながら稽古したいと思いますが、巳之吉を今迄おやりになった先輩の方は皆二枚目の方なので、そこが一番引っかかっていて、「困ったなこれは、顔を変える訳にいかないぞ」と思っているのですけれど、せめて心が二枚目に見えるように頑張りたいと思います。

     恒例 三越劇場 初春新派公演 2014年は『明治一代女』


  

初春新派公演
『明治一代女』

 

公演情報

スタッフ 作: 川口松太郎
演出:  齋藤雅文

 

キャスト 叶家 お梅  波乃久里子
箱屋 巳之吉 佐藤B作
沢村仙枝 市川春猿
秀の家 秀吉  水谷八重子

 

東京公演
日程 2014年1月2日(木)〜1月26日(日)
会場 三越劇場 (日本橋三越本店本館6階)
チケット  8,500円 (全席指定・税込)
前売り 11月30日(金) 10:00より  (※三越劇場では12月1日(土)より)
チケット チケットホン松竹 0570-000-489
チケットWeb松竹 


 

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