劇団スタジオライフ『LILIES』新たな試みで4回目の上演
脚本・演出を手掛ける倉田淳を除いては男性だけで構成され、“耽美派”の劇団として女性ファンを中心に絶大な支持を集める劇団スタジオライフ。
今年、創立28年目を迎える劇団スタジオライフの代表作のひとつである『LILIES』(作:ミシェル・マルク・シャール)は、カトリックの戒律の厳しさと純粋な愛との葛藤を描いた傑作戯曲で、1996年にはジョン・グレイソン監督により「百合の伝説」のタイトルで映画化され、世界各国で数々の映画賞を受賞しています。
物語の舞台は1952年のカナダ郊外にある男子刑務所。囚人たちの告解を闇くために訪れたビロドー老司教は突然、看守や囚人たちに監禁され、かつて学友であった囚人シモンにより、40年前に起きた出来事を描いた芝居を観せられる。その劇中には彼らが40年前に演じた『聖セバスチャンの殉教』が描かれていて・・・、という三層構造仕立てで、会話劇の精密さや美しさ、キャラクターひとりひとりの造形、カナダの片田舎の社会風潮を観客に感じさせずにおかない描写など、演劇的にも奥行きが深い作品です。
その『LILIES』を倉田淳が脚色し演出、女性役も全員男性が演じるという同劇団独自の表現手法で日本初演が行われたのは2002年。少年同士の純愛と人間ドラマを描いたストーリーの奥深さはもちろん、美しく耽美な世界観が劇団の個性と相まって初演時から反響を呼び、2003年、2009年と再演が行われて、2003年の紀伊国屋ホール公演ではチケットが即日完売、当日券を求めて100名以上の行列が出来るなど大きな話題となりました。
今回4年ぶり、4回目となる『LILIES』で特筆すべき点は、まず若手俳優を大胆に起用し、メインキャスト以外にもルーキーを大量投入してパワー溢れる舞台になりそうな事、ふたつ目に、第18回読売演劇大賞優秀スタッフ賞、第38回伊藤熹朔賞新人賞を受賞するなど高い評価を得ている美術デザイナーの乗峯雅寛氏を迎えて美術デザインを一新する事、さらに、トリプルキャストで各チームそれぞれの味わいを出していく点や、旧キャストが前回とは対照的な役どころで参加している点など、従来の高評価に満足することなく、新たに様々な試みが行われていることでしょう。
製作発表会見で、今回の再々演について上演台本・演出の倉田淳は
「これは凄く濃い物語で、人と人が深く関わっているんですね。1912年の戒律に厳しいカトリックが権勢を振るっていたカナダで、シモンとヴァリエは禁断の愛を交わすんです。二人は精神的な愛を求め合っているんですけれども、同性愛は罪で、それを取り巻く生身の人間のぶつかりあいの中で色んなものが動いて行くんです。今はSNSの時代になって、メール一つで色んな事が済んでしまう時代で、それは便利なのですが、敢えて生身の人間と生身の人間がぶつかるとどうなるか。愛が強ければ独占欲や嫉妬が生まれて来て、その中で濃密に動いて行く濃い人間関係に今一度踏み入りたいと思い、まさに今やらせて頂けるとありがたいな、という事で上演に踏み切りました。」と、その意義を語ります。
トリプルキャスト3チームのうち2チームにおいて主人公・シモンを演じる仲原裕之は、2009年の上演でも同役を務めていて、
「4年前にも同じ役で出演しましたが、やり残したことが本当に沢山あって、それを4年経った今、出来ることを凄く光栄に思っています。今、出来るシモンというものが自分の中で絶対にあると思いますので、『LILIES』という世界の中で囚人として、シモンとして、役者として、どう心を動かせる状態にいつも持って行けるかをひとつの課題に演りたいと思います。この戯曲は劇団力といいますか、劇団員の関係の濃さが絶対に必要不可欠だと思いますので、劇団員一同ひとつになってこの作品に挑みたいと思います。」と、改めての出演に向けて気持ちを高めます。
さらに、「やり残したこと」とは何ですか、という質問には
「どう自分の心を揺らして行くか。役者として自分の心が動きづらいという特徴がありまして、舞台の上で嘘を付きたくないので、「どうしたら動かせるようになるのか」ということを4年前に演った後に自分の課題にして、それを心がけて一つ一つの芝居に臨んできました。今回4年経って、自分のやってきた事、今までの経験を踏まえて、「自分の心を、魂をシモンとリンクして震わせて舞台の上に立てるか」というのを4年前の課題として凄く意識して演りたいと思います。それには一日一日の過ごし方、どう準備して行くのかという事が凄く大事だと思います。稽古もそうですし、皆との関係性もそうですし、4年前は後輩として参加させて貰いましたが、今回は自分のチームをどう引っ張って行こうかという意思も芽生えているので、そいういう中で今回シモンをどう演じられるかというのを課題として今回臨んで行きたいと思います。」と、4年間での成長と自覚が感じられる答えが返ってきました。
また仲原以外でシモンとヴァリエを演じる3人(鈴木翔音、松村泰一郎、藤森陽太)は、いずれも入団4年以内のホープで、『LILIES』には初挑戦。
今回、抜擢とも言えるキャスティングをされた3人はそれぞれ、
松村泰一郎(ヴァリエ)
「僕にとって『LILIES』という作品には、入団してから初めての上演に挑むわけですけれども、先輩方と話をしている時に『LILIES』の話は凄く良く出るので、皆の心の中に残っている作品なんだなという思いが凄くあります。ヴァリエ役を演じる上で、その責任をしっかり背負って千穐楽まで走り抜けたいと思います。」
鈴木翔音(シモン)
「この『LILIES』は劇団にとってもお客様にとっても大切な作品だと思っています。11期性と呼ばれている僕たちは入団して時間が経っていませんが、今持っている自分の全てをぶつけて真摯に、一生懸命演じたいと思います。」
藤森陽太(ヴァリエ)
「今回このように若手中心で演らせて頂けることに凄く感謝しています。同時にプレッシャーや思う事もいっぱいありますが、今の僕たちの、この年齢でしか出来ない未熟さなども役とリンクさせて、役としても作品としても表現していきたいと思います。」
と、いささか緊張気味ながらも、若手らしい元気なコメントを寄せてくれました。
そんな3人に対して
「4年前には稽古で倉田さんに「野武士みたい」って言われて、それが心に凄く残っています(笑)。「今出来る自分をぶつける」と言っていましたけれど、本当に本当にカッコつけずに剥き出しのままでぶつかって行けば周りの先輩に拾って貰えると思うので、ただただ真摯にその気持ちを追求して行って欲しいな、と思います。」と、先輩らしいエールを送った仲原裕之。
再来年に迎える創立30周年を控えて、新しい力の芽吹きも感じられる今回のキャスティング。外部公演などの経験も経て成熟の域に入りつつあるメンバーと併せ、劇団としてますます魅力と実力を兼ね備えて来たスタジオライフの公演には大きな期待が寄せられています。
人間にとって愛とは何か、愛の真実と愛の裏切りを行なう人間の業を深く描き、ヨーロッパ、南米、アジア各国でも上演が行われて来た『LILIES』。
男子刑務所という閉鎖された特殊な空間での物語でありながら、観客が自らの思いや、身近な人物と重ね合わせて観ることの出来るリアリティを持った舞台は、観終わった後の心の奥底に必ずや強いインパクトを与えるに違いありません。
『LILIES』
公演情報
スタッフ | 原作: | シェル・マルク・ブシヤール |
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上演台本・演出: | 倉田淳 |
キャスト | Sebastiani | Marcellien | Erigone | |
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シモン | 仲原裕之 | 鈴木翔音 | 仲原裕之 | |
ヴァリエ | 松村泰一郎 | 藤森陽太 | Lys | |
ビロドー | 鈴木智久 | 千葉健玖 | 宇佐美輝 | |
ティリー伯爵夫人 | 青木隆敏 | 楢原秀佳 | 青木隆敏 | |
マドモアゼル・リディアンヌ | 曽世海司 | 牧島進一 | 堀川剛史 | |
老シモン/ティモシー | 笠原浩夫 | 山本芳樹 | 倉本徹 | |
老ビロドー | 船戸慎士 | 曽世海司 | 藤原啓児 |
日程 | 2013年11月20日(水)〜12月8日(日) |
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会場 | シアターサンモール |
料金 | 一般 ¥5,600(前売・当日共) |